出合い
美紀の住むコンドミニアムの五階はワンフロア全てが美紀の物である。二階でエレベーターのドアが開き、なんとそこから種男百五番が乗ってきた。美紀は種男百五番をテレビで観たことがある。驚いたがこんなこともあるものだろうと冷静だった。五階で降りるとなぜか、種男百五番も美紀と一緒に降りた。
「ここは、私専用のフロアなんですけど」
と美紀が訝しそうに言うと、
「知ってるよ。でも今日から三日間、僕は君の彼氏だから」
そう言って、美紀の荷物を持ち、ドアを片方の手で押さえた。美紀は、
「彼氏ってなあに?」
と訊いた。種男百五番は、
「美紀さん。あなた、相当のインテリのはずなのに彼氏っていう言葉を知らないんですか。三百年前の日本では、この言葉を皆、使ってたんですよ。彼氏って言うのは、男の恋人のこと。つまり、愛する人のこと。あなたが僕を好きになるってことですよ」
「どうしてあなたが私の彼氏なわけ? あなた種男百五番でしょう? あなたのこと借りに行ったりしてないわよ、私」
「おかしいなあ。次の予約は、藤田美紀二十六歳、国際弁護士のはずだよ」
「確かにそれは、私のことだけど、予約なんて入れようとも思ってないし、子供はバンクに行って慎重に選ぶことにしてるから。あなたの精子のデータだって読んでないし、何かの間違いだと思うよ」
「僕さあ、久しぶりなんだよ、抽選予約の人受け入れたの。最近は抽選で当たった人をみんなキャンセルしてたんだから」
「何度言ったらわかってくれるわけ? 抽選に応募なんかしてないって」
「まあ、こんなところで立ち話もなんだから、中に入れてくれないかなあ?」
「あ、ごめんなさい。どうぞ」
種男百五番は、にこにことしていた。何がうれしいって美紀があまりにもきれいだったからだ。美紀の資料に目を通したとき絶対この女だけはキャンセルしないと心に決めていた。
美紀はあせっていた。今まで会ってきた中で、誰一人として種男百五番のように背が高い人はいなかったし、顔つきから何から何までが異星人のようであった。男に接するのが初めてなのだから仕方がない。
美紀の母、民絵でさえ、男を生で見たことはない。その母がもうすぐ帰宅する。美紀は思い切って種男に訊いてみた。