日本の総医療費の増大
戦後の日本人の平均寿命は50歳程度だったのが、現在は女性が87歳、男性が81歳になり、世界で最も平均寿命が長い国となりました。
これは、日本の医療がその目的である健康を改善するということに成功したからにほかなりませんが、結果として医療費が膨れ上がりました。
30年前には約20兆円であった年間国民総医療費は、現在では約40兆円と2倍になっています(図表1)。
国民の数は、この30年間で漸増(ぜんぞう)しているだけで、物価もあまり変わりないことを考えると、やはり高齢化社会の到来の影響もあり、一人当たりの医療費が増加しているという現状があるかと思います。消費税率を1%増やしても、税収は一年1兆円しか増えないといわれています。
税金で賄(まかな)うのが社会福祉費・学童教育費・公共事業費・国防費など、医療費だけではないことを考えると、このままの状態ではいくら消費税を上げても、らちが明かないのではと思います。
また、国民皆保険で誰しも安価で医療を受けられる日本では、この医療費沸騰(ふっとう)が問題となるのは誰しも想像できることではないでしょうか。
私の外来を受診された一人の代議員の方は、
「先生が危惧(きぐ)するように、日本の医療費制度はもう破綻(はたん)しているよ。ただ、目の前の選挙を考えると、医療費削減などとは到底言えない」
と内情を教えてくれました。このまま、国民皆保険で今の医療水準を維持していくのは、国家の財政上、困難であることは間違いない事実だと思います。
具体的に、ここ最近の日本の総医療費について見ていきましょう。2018年度に医療機関に支払われた医療費の総額は、43兆円となりました。国民一人当たり34万円で、過去最高を更新しています。
年々、医療費が増加する主な原因は75歳以上の後期高齢者の医療費の増加だといわれており、75歳未満一人当たりの医療費が22万円であったのに対し、75歳以上の後期高齢者は94万円にも上ります。
高齢化の進む日本では、今後もさらなる医療費の増加が予測されており、2040年には67兆円になるともいわれています。いわゆる人生100年時代の到来によって、医療費が増加しているのです。