「常磐さんですか?」
電話のときと同じ声だった。
「はい」
「こちらへどうぞ」
男は瑞穂を部屋の中に招いた。
部屋に入ると、テーブルと椅子だけが置かれていて、部屋の奥は見えないように仕切りが立てられていた。
「年齢はいくつですか?」
「十四歳です」
「中学三年生ですか?」
「いえ、二年生です」
「失礼しました」
男が中学生の自分にも丁寧な態度をとっていることで、瑞穂は少し安心した。
「チラシをご覧になってですよね」
「はい」
「どなたにメッセージを届けたいのですか?」
「お父さんとお母さんに」
男のまぶたが微かに動いた。
「未成年の方がこの『アフターメッセージ』を利用する場合には、原則として保護者の同意が必要なのですが、よろしいですか?」
――それならだめだ――
瑞穂の表情を見て、男が、
「ご両親には言えないのですね?」
と言ってきたので、瑞穂は男から視線をそらした。
――帰ろう――
「この『アフターメッセージ』は、自分が亡くなったあとに、大切な人にメッセージを届けるものです。失礼ですが、近いうちに亡くなってしまいそうなことがあるのですか?」
瑞穂が答えずに立って帰ろうとしたので、男は、
「ご両親へのメッセージを作成する予定だったのですよね。それなら、例外として、保護者の同意がなくてもとりあえず作成させていただき、その内容によって委託を受けるかどうかを判断させていただくというのはいかがでしょうか?」
作成するつもりで来たはずなのに、作成してはいけない気持ちになっていた。