幸せな幼少期と悲惨な少年期

そう、あれはもうそろそろ、お寺に通うのも終わりを迎える時期だったと思います。真之介から言われたのです。

「お前の家の近くに住んでいる妻木の娘を知っているよな」

「知っていますよ」

「妻木の娘を紹介してほしいんだ」

「どうしてですか?」

「理由なんか言わなくても分かるだろう。お前にも良い子を紹介するから、頼むよ」

「分かりましたよ」

私は、ある悪巧みを考えつきました。狡くないと人間生きていけません。

次の日、私は、田島とお寺の帰りに待ち合わせ、妻木家へ行くことにしていました。

「良い物を持ってきた」と真之介にある草を混ぜたまんじゅうを渡しました。

「気が利くねえ! 戦の前の腹ごしらえ」と真之介は、うまいうまいと、ムシャムシャとたくさん食べてくれました。

妻木家に行き、家の者に、私が呼んでいるとひろちゃんを呼び出してもらいました。ひろちゃんは、ニコニコしながら、

「彦ちゃん、どうしたの」と走って出てきました。

しかし、真之介の顔を見ると急に怖い顔になり問いかけてきました。

「この人誰?」

「田島真之介、妻木家の娘に会いたいと言うから連れてきた」

真之介はひろちゃんに向かい、

「どうも、以前あなたが畑仕事をしているのを見かけ、好ましく思いました。どうか私と付き合って……うぅ腹が痛い」

と言うなり急に腹を押さえ始めました。

「厠をかしてください」と真之介。

「駄目よ、その辺ですれば」

と、ひろちゃんは言います。急いで、木の陰でしゃがもうとする真之介を見るや、ひろちゃんは、大声で、

「お父さーん、家の前で“うんち”しようとしている人がいる」

と叫んだのです。真之介は尻を押さえて、茶色い臭いを引き摺りながら、どこかに走って行ってしまいました。

「彦ちゃん、変わったわ! なんであんな奴を私の前に連れて来たの」

バシ! バシ! バシ!(何度も殴られました)

「もう、彦ちゃんも私の所に来ないで」

その後、ひろちゃんとは、道で出会っても何も言わずに、ただすれ違うだけの仲になってしまいました。