転機の中で。救いを求めて
二十八歳で、うつ病になった私ですが、秘書職の給料も良く、二十九歳になった時には、兄と一緒に頑張った甲斐あって、家の借金を返済できました。
その頃から、父が結婚の事を口にするようになりました。父に言われずとも、周りの友人達を見れば、女性として、結婚に出遅れている事は、わかりきっていました。
でも、ようやく、兄の収入だけで、家計が回るようになり、給料を自由に使えるようになったばかりの私は、仕事を続けたいと思いました。
そして、男性と全く交際した事のない自分が、一体どうやって結婚するのか? と、本気で悩み始めました。
そんな時、友人を介して、一人の男性と出会いました。一つ年上で、大学の研究室で助手をしている人でした。背も高く、優しい人で、私は結婚を意識して交際しました。
しかし、彼の考えを聞くうちに、大きな不安を感じました。彼は、結婚しても、私に仕事を続けて欲しいと考えているようでした。私は、仕事にやりがいを感じてはいましたが、喘息持ちで、普通よりも体力が大きく劣っている事から、仕事と家事を両立していく自信が、全く持てませんでした。
そんな無理をしたら、きっと死んでしまうだろうと思われました。
そして、死んでもいいほどに、彼を愛してはいない自分を自覚しました。手をふれる事もないまま、三十歳を前に、私は彼に別れを告げました。
結婚するには、恐らく、ラストチャンスだと思い、先の不安を感じましたが、彼の貴重な時間を、これ以上もらっては申し訳ないと思いました。
しばらくの間、彼から毎日手紙が来ました。私は(どうか、彼が、本当に彼にふさわしい女性と出会い、幸せになられますように)と、毎日祈りました。
結婚から遠のいた私は、うつ病が悪化しました。三十代になり、仕事の責任が増え、益々忙しくなりました。体中が痛く、毎朝、自分を叩き起こし、奮い立たせて、やっと仕事へ向かいました。
首根っこに五寸釘が刺さっているような激痛があり、口内炎が頻発し、血圧が異常に低く、根性だけでは、もはや勤められなくなり、三十三歳で、私は辞表を出し、会社を辞めました。