失墜
一九五三年七月にハリウッドに戻ったジーンが取り掛かった次の仕事が「ブリガドーン」('54)だった。
アラン・ジェイ・ラーナー、フレデリック・ロウのコンビが作詞、作曲し、一九四七年にブロードウェイでヒットした同名ミュージカルの映画化である。
映画化にあたってはラーナー自身が脚本を書き、監督ヴィンセント・ミネリ、主演と振付けはジーンと、「巴里のアメリカ人」と同じ布陣となった。
ストーリーは次のようであった。
二人のアメリカ人トミーとジェフが休暇を利用し狩猟にスコットランドへやって来る。
道に迷った二人は百年に一度だけ地上に姿を現すという伝説の村、ブリガドーンにたどり着き、トミーは村の娘フィオーナを愛するようになる。
ニューヨークへ帰った二人だが、真実の愛に目覚めたトミーはスコットランドへ戻る。
すでに五十三年五月、滞在中のパリでジーンはフリードと会い、スコットランドでロケハンまで行っていた。
当初の予定では野外ロケをスコットランドで、室内シーンは英国ボアハム・ウッドのMGMスタジオで、ミュージカル・シーンはハリウッドで撮影する目論見であった。
だが、資金に乏しいMGMから英国ロケの許可が下りず、ジーンを落胆させることになった。
恋人役のフィオーナにモイラ・シアラー、相棒のジェフにはドナルド・オコンナーが考えられたがそれぞれの事情で実現できず、シド・シャリースとヴァン・ジョンソンに落ち着いた。
テレビから観客を取り戻すため、当時各スタジオはワイドスクリーンや3Dを売り物にした映画を次々と公開していた。
このブームに乗り、MGMも「ブリガドーン」をシネマスコープで撮影することに決定した。
横に広い画面を生かすには本来雄大な景色を撮影できるロケーションが望ましかったが、スタジオ撮影ではそれもかなわなかった。
やむを得ず三つのサウンド・ステージを一つにして巨大なスコットランド高地のパノラマが描かれ、そこにブリガドーンの村のセットも作り上げられた。
完成した作品は初めてのシネマスコープとしては横長の画面を上手く活用した撮影や振付けがなされており、工夫が感じられる。