木村さんは2000年3月に筑波大学を卒業してサントリーに入社しました。9月にオーストラリアのゴールドコーストで開催された「分化と細胞生物学の国際会議」で彼女は「ウーロン茶はテトラヒメナのミトコンドリアの膜電位を上昇させる」というタイトルでポスター発表を行いました。

そのユニークな発表は参加者の注目するところとなりました。お茶用の急須と茶碗を持参し、ウーロン茶を質問者にふるまいながら研究成果を説明したのです。

多くの質問者が集まり、用意したウーロン茶はあっという間に飲み干されてしまいました。発表内容は十二分にアピールできました。

木村さんの研究を引き継いでくれたのは、2001年度の卒業研究生、藤原隆史君でした。彼はウーロン茶からミトコンドリアの膜電位を上昇させる物質の抽出分離に挑戦したいと私に言いました。

しかし、私は繊毛虫テトラヒメナの細胞分裂の分子機構や、酵素の活性制御を専門にする細胞生化学者です。ウーロン茶からどのようにしてミトコンドリアを活性化する物質を抽出分離すべきか、全くアイデアがありませんでした。

本当に情けない話ですが、二人で途方に暮れていたとき、思わぬ援軍が向こうからやって来ました。筑波大学の農芸化学分野で長年、緑茶や紅茶のポリフェノールを研究していた小澤哲夫先生が、私たちに力を貸してくれるというのです。

願ってもない申し出を私は喜んで受け入れました。その日から藤原君、小澤先生、そして私の3人からなる、ウーロン茶MAF探索チームがスタートしました。

小澤先生の参入でMAF探索の方法が大きく変わりました。いままではサントリーの研究者からウーロン茶を5つの成分に分画したものを提供してもらい、それらのミトコンドリアの活性化能を調べていたのです。

しかし、小澤先生の経験と技術のおかげで、私たち独自の方法で、ウーロン茶からミトコンドリア活性化物質の抽出法を開発することができるようになりました。

自由自在に研究を展開できるようになり、とてもうれしく思いました。