第1章 紅茶に含まれるMAFとは
MAF発見のきっかけ
MAFとは、ミトコンドリア活性化因子(Mitochondria Activation Factor)という名前の物質です。その英語の頭文字M、A、Fの3文字をとってMAF(マフ)と呼んでいます。
この物質がどのように発見されたのか、まずその経緯からお話ししましょう。1999年のある日、学生時代の友人である細田和昭君が筑波大学の私の研究室を訪ねてきました。
彼は株式会社サントリーでウーロン茶の商品開発のために、ウーロン茶の効能を研究していました。当時、私は繊毛虫テトラヒメナ(図1)のミトコンドリアのクエン酸合成酵素の奇妙な性質を研究していました。
テトラヒメナとは、淡水中に生息する単細胞生物で、光合成はしませんから繊毛で泳いで細菌などを捕まえて食べて増殖します。
ミトコンドリアは、細胞内で酸素を使った呼吸反応を行う場所で、クエン酸回路(図2)という大変複雑な化学反応を行ってエネルギーを取り出しています。
そのなかで働くクエン酸合成酵素は、アセチルCoAとオキサロ酢酸からクエン酸をつくる働きをする、クエン酸回路の入り口にある重要な酵素です。
細胞分裂をしてどんどん増えているテトラヒメナはエネルギーをたくさん使いますので、クエン酸を合成するためにクエン酸合成酵素がフル回転で働いています。
しかし、培養液中の餌がなくなると細胞分裂ができなくなります。そのとき、クエン酸合成酵素はミトコンドリアのなかで重合(同じもの同士が結合)して繊維状になって固まり、酵素活性(酵素として働く力)を失い休眠状態になってしまいます。