雨に唄えば
バレエの冒頭、タイムズスクエアでジーンが歌い、ネオンサインが輝き、多くのダンサーが現れる。美術監督のランドール・デュエルが最も苦労したのがこの場面だった。
五十五mもの高さに据えられたカメラからエキストラのダンサーとネオンサインを一度に撮影する必要があり、カメラの動きや音楽に合わせネオンを明るく輝かせるのが難しかったという。
次はトランク一つの若いタップダンサー、ジーンがニューヨークへやって来るシーン。二本の動く歩道を平行に並べ、その上をダンサーが移動する。奥の歩道では通行人が右から左へ、手前ではジーンが左から右に進む。人の流れが絶えず、スピード感が落ちない。
エージェント事務所のドアをノックしタップを見せ、断られて次の事務所への繰り返しがリズムを生む。潜り酒場では、フロアいっぱいの客とジーンが掛け合いながら“ブロードウェイ・リズム”を歌い踊る。
次いで客たちは周囲のテーブルに捌け、広いフロアをジーン一人が思うままに踊りまわる。その明るさとダイナミズムが観る者を高揚させる。画面奥から手前に向け膝でフロアを滑って来ると、突然女の足が目の前に伸びて、動きが止まる。
高揚から緊張への変化が、動きの緩急によって生み出されて素晴らしい。画面の奥行きも十分に表現されている。ルイーズ・ブルック風の髪形に緑のドレスのギャングの情婦、シド・シャリースの登場もセンセーショナルである。
ジーンに興味を持った情婦は彼の回りで妖しく踊り、タバコの煙を吹きかけてからかい、眼鏡を蹴飛ばして翻弄する。我慢できなくなったジーンが強く情婦を引き寄せ、二人は情熱的に踊る。
ジーンがシャリースを強く抱きよせた姿もこの映画を代表するシーンの一つである。情婦が去り呆然とするジーンの腕を取り、エージェントが連れて行ったのが劇場の楽屋口。