第一章 愛する者へ 7
披露宴はしないことにした。
「披露宴は新婦が主役」と聞いていたので、その主役がしなくていいと思うなら、する必要はないと思った。
――披露宴にかけるお金を旅行や生活にかけたい――
霞も、新郎となる長瀬武も、若葉の考えに賛成してくれた。
武とは職場結婚だった。
『好きな人ができたら』を観たけれど、役に立ちそうなことは何もなかった。
――娘のことを心配している父親をアピールしたかっただけ――
若葉がそれを観たのは、武との交際を始めたあとだったのだから、「役に立たなかった」と言えば、「父さんのおかげで結婚できたんじゃないか」と怒られると思った。
披露宴をしない代わりに、身内だけで食事会をすることにした。
出席者は、新婦側は若葉と霞、新郎側は武と両親と妹で、全員で六人だけのこぢんまりとしたものだった。
食事会の五日前になって、
「お父さんのメッセージを流してもいい?」
と霞が言ってきた。
あまりにも突然のことに、若葉はすぐには回答できなかった。
「お父さん、本当は披露宴で流してほしかったみたいだけど、披露宴やらないから、代わりに食事会で……」
「お母さんは観たの?」
「お母さん宛のものといっしょに入ってたから……」
「お母さんにはまだ届いてたんだ……」
「でも久しぶりよ。若葉の二十歳の誕生日のときに届いたでしょ。そのときにいっしょに届いて、それ以来」
「そんなこと突然言われても」
「お母さんのところにも三日前に届いたばかりなの」
「リストにあったの?」
「うん、『若葉の結婚式で』って……」
「武さんの家族だっているんだし」
「お父さん、若葉だけじゃなくて、みんなにも観てもらいたいみたい」
「観てから決めてもいい?」
「事前に観ちゃったら、お父さんがっかりすると思う」
結婚式で流すものを霞宛としたのは、「若葉には事前に観せたくない」という新の気持ちからだと思った。
「お父さん、流されるのを楽しみにしていたと思う……」
霞が寂しそうな顔をしたので、若葉も冷静に考えることにした。
「みんなの前で流してもだいじょうぶなやつなの?」
「だいじょうぶだと思うけど」
「分かった、武さんに話してみる」
「お願いね」
若葉はすぐに武に電話をして、『アフターメッセージ』のことを簡単に説明すると、武は、
「ぜんぜん問題ないよ。念のために親にも話しておくよ」
と言ってくれた。
その翌々日に、武といっしょに新の墓に挨拶に行くことにした。
墓に向かう途中の車の中で、
「電話で話したやつのこと、ご両親は何ておっしゃってた?」
と若葉が尋ねると、
「すごく楽しみにしてた」
と武は笑顔で答えた。その様子から、武自身も楽しみにしていることが伝わってきた。
「そう、ありがとう」
そう言いながらも、若葉は楽しみよりも不安の方が大きかった。