第一章 3人の出会い

金星台から諏訪神社の側の細い坂道を登ると、ようやくヴィーナスブリッジのすぐ側の展望台にたどり着いた。

茂津は、「何だよ、これは。こんな景色があるのかよ!」と、興奮気味に叫んだ。

勉は、「茂津、関東風に言うと、大ありのコンコンチキよ」と、自慢げに言った。

そこは、山の中腹に突如として現れたバルコニーのような感じで、北側には諏訪山から耶山・六甲山へと緑の山々が連なっている。前面南側には、神戸の町並みとその向こうに碧い海が大きく拡がり、対岸の和歌山の沿岸部がかすかに望めた。六甲山・摩耶山や鉢伏山からも大阪湾が一望できてなかなかの絶景だが、ここからは海が間近に拡がり、手が届きそうにも思えるほどで格別である。

3人は、しばらく黙って眺めていたが、勉がしみじみと呟いた。

「俺は海が見えるこの町が好きなんや。家から見える海もええけど、ここからの海は格別や。海を近くに感じられて、命が洗われるようや」

「ほんまにそうや。辛いことも嫌なことも、大きな海が飲み込んでくれるみたいや」と宗も、勉言葉を噛みしめるように呟いた。

こに来てみると、お前たちの言う、〝海が好き〟ということの意味が実感できるよ」と言って、茂津は海を眺めた。しばらく海を見つめ続けていた勉が神妙に言った。

「夕陽がなあ、もっと素晴らしいんや。あれをな、人間が描こうとしても絶対に描かれへん。自然の営みの偉大な力と自然の造形美を感じるんや。何かにつけても、人間は自然には勝たれへん。人間は自然の前で謙虚であるべきなんや」

「たしかに別当の言うとおりだよ。ほんとうに」

茂津は感嘆の声を上げた。

「俺も全くの同感や。それに大きな海を眺めていたら、どんな時も心が救われるような気がするんや」

「宗のような石頭の堅物でも、悩むことがあんのかよ」と茶化すように茂津が言うと、生真面目な宗は、「当たり前やんか。生きている限りは誰でもやろ。人間の宿命やないか!」と応じた。あわてて茂津が、

「分かってるよ。もちろん冗談だよ。そうムキになんなって」と、言って微笑んだ。

それにしても、海はどこまでも碧かった。

駅前で買った弁当で昼食を済ませ、小一時間ほどして、茂津が、「ここから、異人館街が近いんだろ。俺は行ったことがねえから、連れて行ってくれよ」と2人を誘った。

「ええけど、あそこはカップルが多いで。けど、茂津兄ヤンのご希望なら行くか、どうや」と言って、勉は宗に投げかけた。

「ええで。行こうや」と二つ返事で応じた。

「男3人で色気はないけどなあ」と勉が言うと、茂津が「おまけにハンサム1人とブサイク2人の3人組さ」と悪戯っぽく応じた。3人に笑いがおこった。