門前で声を上げると、門の横の木戸が開いて、屈強そうな若い僧が顔を出した。
「何の用だ、ここは只の寺院ではないぞ、見れば浪人武者のようだが、道場破りか」
「拙者、美濃の浪人明智十兵衛と申す者、こちらでは珍しい鉄砲という物を沢山お持ちだと伺いましたので、是非拝見させていただけないかと存じますが」
「そのような浪人の相手などしている暇はないわ、それとも誰かの添え状でも持っているのか」
「堺の商人千宗易様の紹介状を頂いております」
「しばらく待たれよ、伺って参る」
そう言って若僧は奥に向かっていった、やがて木戸が開かれて光秀と茂作は寺内に招き入れられた。
本殿の階段横に、中年の紫衣の僧が、にこやかな顔で光秀を迎えた。光秀が怪訝そうな顔をしていると、僧は
「おお、十兵衛か、立派になったものよ、儂じゃ、弘淳じゃ、今から七、八年前じゃが、道三殿に乞われて、美濃の稲葉山城に種子島の扱いを教えに参ったではないか」
「あの時の和尚様ですか、残念ながら道三様は義龍に討たれ亡くなりました、吾が明智家も、義龍に敗れ、明智城は落城となり、私もこのような流浪の身となりました」
「噂には聞いておったが、気の毒なことをした。やがて土岐源氏は、その方が再興いたすよう励めばよい、その時は幾ばくかの力添えをいたそう」
そう言って僧は、光秀を本殿の裏手の中庭に、案内した、そこは三十間角の広場となっており、壁の二面には半間置きに的が設えてあり、僧兵達が交代で鉄砲を的に向かって試射し、耳を劈くばかりの轟音が響き渡っていた。
光秀は、半刻余り弘淳と積る話を交わした後、妻子を近くの茶屋で待たしてあるからと、暇を乞い根来寺を辞した。