じっと優輝の顔を覗き込んでみるが、さっきまでの大人びた表情ではない。今のやりとりは、何だったのだろう。つい居眠りして、また変な夢を見たのか。それとも?

今こうして私が抱いている優輝からは、特別な気配は感じられない。どこにでもいる普通の0歳児であり、それ以上でもそれ以下でもなさそうだ。

翌日の夜にも同じようなことが起こった。和室の布団で寝かしつけていたら、うとうとしていたはずの優輝が急に起き上がり、よいしょ、と座り直したのだ。

「昨日は途中で寝ちまって、悪かったな。続きを説明しようか」

楽しそうに微笑む優輝からは、父親の口調でかわいい声が届いてくる。その解説によると、信じがたいことだが、優輝が生まれた瞬間に、優輝の体に慶三の魂が入り込んだらしい。

優輝として生まれ変わったのではなく、優輝本来の人格も同時に存在しているため、小さな体にふたつの人格を持つ特殊な子供なのだと。

父親の人格が同時に現れることはない。慶三のように後から入ってきた者は、一日のほとんどを寝て過ごす。起きている時間は、今は十分から長くても三十分くらいである。体の成長と共に体力が伴えば、徐々に起きている時間も長くなるのだと。

それが先人に対する配慮ともいえる暗黙の取り決めで、先人の人格を極力尊重するよう定められているらしい。父のいる世界では、そういうルールになっているそうだ。

慶三が目覚める時間帯は決まっていない。いつ起きるのかは、本人にもわからないらしい。

優輝の体調や周囲の環境によって変わってくるため、優輝が寝ている時に起きる場合もある。このケースでは勝手に優輝を起こすわけにもいかないので、仕方なくまた眠るしかない。

これが一番自然で平和な共存なのだが、いつもこうとはかぎらない。

慶三は未代に話してないが、数日前に戸畑喜美恵と言いあった時には、体内時計を研ぎ澄まして意図的に目覚めたのである。その負担からか優輝の体力は奪われ、反動で小さな体に見合わぬ疲労が残ってしまった。未代が五歳の体に負担かけるなとなじるのは、こういう理由があるからだ。

慶三が優輝の中に存在することは未代しか知らないし、他人には絶対知られないように努めている。

「でもさ、お父さん、あのね……」

まだいろいろ聞きたい未代だが、慶三はそれを遮るように体を横たえ、優輝ともどもすーすーと眠ってしまった。