和の素材の限りない可能性

出汁がなければ和食ではないといえるほど「出汁」は和食にとって必須の決め手です。

和食にとっての出汁の重要性や新たな可能性に気付いた世界中のシェフたちの手により、他の料理に生かそうとする新しい次元への潮流が巻き起こっています。出汁の素材たちはフレンチやイタリアンの世界で生き生きと活躍し始めているのです。

2013年11月、農林水産省は、日本の伝統的な食材の普及を目的としてフランスの著名な料理人とコラボする「日本に出会う」展(A la rencontre du Japon)をパリで開催しました。この事業には、八木長本店が厳選した羅臼昆布、鹿児島県の鮪削り節、鳴門産の糸わかめも選ばれ、世界的に有名な三つ星シェフであるアラン・デュカス氏とその仲間が使うことになりました。

私はこれらの食材の使用方法を伝授するため、製造者の方たちと渡仏しました。

アラン・デュカス料理学校では、フランスのスペシャルシェフたちが日本の伝統的な食材を使って腕をふるい、日本料理の範疇を超えた料理に仕立てる、リアルな過程を見るという体験をさせていただきました。

彼は「ゲストを満足させる料理の80パーセントは食材で決まる」と言っているそうです。奇しくも魯山人と同様の言葉です。魯山人は「料理の美味不味は、十中八、九まで材料の質の選択にあり」と言っていますから。

この貴重な体験によって、私は素材の持つ力を再認識し、これを生かし切ることがどれだけ世界の料理においても重要であるかを身をもって学びました。

さらに、世界初の女性三つ星シェフとそこに働く日本人女性が、日本の出汁をはじめ、抹茶や柚、山椒を使って素晴らしい料理の数々を作り出している姿を見て、和の素材の限りない可能性に胸が躍りました。

私は、出汁をはじめとする和の素材の重要性や新たな可能性を間近で体感することで、基本を大切にしつつも、出汁の新しい姿を考えるようになりました。

皆さんも出汁素材の奥深さやブレンドの楽しさを体感してください。出汁の宇宙はますます広がりを見せてくれています。