ベスが立っているそばに低木が茂っていて、そこに赤い実が鈴なりになっていた。二人はそこから実を摘んでは口に入れた。手の平に木の実をいくつか置いて、ビクタスに差し出した。馬も腹をすかしているらしく、あっという間に手の平が空になった。そして自分から低木へ近づき、鼻を押し付けながら食べ始めた。
「ねえラウル、あなたのお城の地下室にも、ラルス・ジーモンの肖像画が隠されているの?」
ベスは木の実を口にほおばりながら言った。ラウルは警戒したような眼でベスを見た。
「どうしてそんなことを聞くの?」
彼女はまた木の実をつまんだ。
「あなたは見たことある?」
そう言いながらベスはラウルを見た。
「私は小さい頃、姉のトレイシアに連れられて、父上には内緒で城の地下に行ったときに見たわ。大きな幕のような厚い布に覆われていたのを、姉が引きずり下ろしたの。今でも覚えてる。私は一度だけだったけど。トレイシアはその後何度も見に行っていたわ。しばらくして姉が十歳の頃、隣のマケドラーダの国王陛下に家族で招待されたの。その夜、姉はマケドラーダ国の城の地下へ、ラルス・ジーモンの肖像画をひとりで探しに行ったのよ。」
ラウルは怪訝そうな顔をした。
「何のためにトレイシア姫はそんなことをしたの?」
「確かめるためよ。ブルクミラン国のラルス・ジーモンの肖像画は、全身像でいくらか右の方に視線が向いているの。マケドラーダ国の肖像画は胸から上で、顔は正面を向いている絵画だったらしいわ。でも、全く同じ人物だったそうよ。年齢も髪型も、顔も……。」
「それはそうだろう? 同じラルス・ジーモンの肖像画なんだから。」
ラウルは不可解な表情を浮かべ、べスを見ている。
「それで、アルメニス国の肖像画はどうなのかしら? ラウルは見たことがあるの?」
「あるよ。」
少し怒ったような口調で言った。
「少し軽率すぎないか? そんな話。君の姉君は、だいぶ変わってるんだな。」
ベスはきょとんとしてラウルの方を見た。
「あなたの国ではこの話はタブーなの?」
「そうじゃないけど、軽々しくおしゃべりする話でもないだろう?」
ベスは軽いため息をついた。
「姉は調べているのよ。研究をしているの。確かめるために。」
「だから、何を?」
ベスは真剣な眼でラウルを正面から見た。