新入生を励ますのではなく、屈辱を与えるようなことを言う奴が、学年主任とはおそれいった。わずかであっても、この学校に抱いていた夢も期待も奪うようなことを言って、水田は教師の資格があるのかと思うのだった。

このこともあって、勉はこれからの3年間が憂鬱に感じられた。そうかと言って、退学する勇気もなかった。腹立たしさが胸に積もった。

勉の担任は喜田という英語の教師で珍しく蝶ネクタイをしていた。最初のホームルームで自己紹介的に話した中で、「ぼくはなんであれ高級なものが好きだ」というようなことを言った。

またも勉はウットイ野郎だと思った。そう言うなら、お前はこんな高校にいないで、近くの私学の超一流進学校にでも行け。行けないから、お前もここにいるんだろ。気位ばかりが高いだけの情けない男だと、声を出して言いたかった。

学年主任といい担任といい、勉は愕然とした。勉は憂鬱な気分で、ただなんとなく惰性だけで高校に通っていた。入学から数日が過ぎて、教師たちのことがさらに分かってきた。

担任の喜田は例のとおり、キザな調子で生徒を見下しながら授業をしていた。数学は早川という男で、頭髪が薄く頭をテカつかせながら早口でしゃべった。

まるで、自分の数学の能力を生徒に誇示することが、唯一の生きがいであるかのように、生徒の理解度に頓着することなく、マイペースで授業を進めた。

ある時、生徒に黒板に書かせた答えを観て、

「答えが間違っているなあ。こんな問題には頭を使う必要がない。まあ手の運動のようなものだな」

と言った。勉は、この教師は、言葉が人を傷つけることがあることを、理解していないのかと思った。

勉強しに来ているのに、しかも入学したての一年生に、なんでもかんでも分かるわけやないやろ、ちゅうねん! 生徒を馬鹿にしやがって、鼻もちならない男だ。たかが高校の数学の教師じゃないか。自分に言われているように腹が立った。

大体のところ、数学なんざあ、時代によって答えが変わるわけじゃない。昔から1+1は2と決まってんだ。かの偉大なベーブ・ルースが蘇って、阪神タイガースの四番を打つことがあったとしても、答えが変わるわけじゃないんだ。

数学の教師は一度理解さえすれば、後はろくに努力しないでも一生食っていける代物だ。所詮は気楽な稼業ときたもんだ。薄っぺらな知識を自慢たらしく生徒にご披露あそばして、情けない野郎だと思った。

音楽担当は市川という男で、スーツを着た信楽焼のタヌキという風貌をしていた。こう言われるとタヌキ諸氏もさぞ気を悪くすることだろう。ひょっとすると、今頃クシャミをしているかもしれない。外見はどうこう言うべきものではないが、勉は最初の授業の話でヘドが出そうになった。