部品が不足すると、洞窟から作業場にと補充する。長男は「革のにおいが好き」と言いながら、靴製造工程を観察して、ついには表革、内革、底革を見分けて整理したり、型紙を当てて切り始めたりして、助手になってしまった。
下の妹弟は色違いの革を組み合わせて花や動物を模したり、刻んだ残り革で靴ひもをつくりあげたりと、得意げに見せ合っている。そのさまを見ると、実の子供たちと錯覚するほど可愛く思う。
市場を歩き回って、子供たちのためにいくつかの物を買ってくる。それは政治色のない夢の詰まった本であったり、古ぼけた地球儀であったり、簡単な顕微鏡であったりした。
本を読んであげたり、地球の不思議や広さを話したり、小さい生き物の生命、構造を見せたりと、靴屋は全く経験のない新しい生き甲斐を見つけていた。高齢のミンには古着だが厳しい寒さを和らげてくれる野兎のコートを奮発してプレゼントした。
ジェインが自分のことのように喜びの声を上げる。白い肌に子供たちと同じように澄んだ大きい目をして慈愛に満ちている。このような貧しく荒すさんだ世の中で、なぜ暗い顔をしていないのか。小さくぽっちゃりした唇から、いつも穏やかな声がする。
かつては夕食後、主人のリー中尉がいないときには遠慮して早々に門のそばのこぢんまりした住居に帰っていたミンは、今は家族と一緒にオンドルの暖かさとよもやま話を満喫しながら、火照った顔をさすっていた。
その話題が、靴屋の記憶に刺激を与えることも期待している。日が増すにつれてジェインの魅力に引き込まれ、目を離せなくなった。ジェインは顔の艶がよみがえり、潤んだ目で見返してくる。指先の動きにまで色気を感じる。
停電が当たり前のこの国では、夜なべ仕事にはロウソクの揺れる火が頼りになる。かじかむ手をお湯につけながら、靴に糸を通す。ジェインが温めたミルクを持ってきた。
「ありがとう」。
見返すと眼の中に、望んでいる言葉が読み取れた。引力のなすまま顔が近づく。
欲望の渦に巻かれながら、ジェインは瞬間主人ではない何かを感じたが、体の奥から突き上げるものがそれを吹き飛ばしてしまい、忘我の波に溶けていった。