理想の森林、理想の国土
日本の国土の67%(2505万ha)を占める森林を適切に維持管理してゆくことは、日本人全体にとってとても大切な課題です。
しかし、「適切」とはどのようなものでしょうか。
日本の国土のことでありながら、目指すべき「適切」な姿を私たちは描けていません。そして、多くの不安要素が目に付きます。
今更という感じですがスギ花粉の問題もその1つですし、シカやサルなどによる野生生物被害の拡大も、森林の維持管理と密接に関係しています。
現在のところ、個々の不具合への個別の対応に終始しているように見えますが、長い時間がかかる森林の育成に関する姿勢として、それは適切なのでしょうか。
日本では自然環境の問題に対して、失われた自然環境を元に戻すという意味で、過去に向かって時計をどれだけ巻き戻すか、という考え方でゴールを設定するケースが多くあります。
自然生態系に対する働きかけを示す際、「保全」「再生」「復元」という言葉が使われることからわかるように、通常、生態系への働きかけとは、現状を維持するか、過去の自然環境への遡行を意味しています。
例えば、ドブ川化した用水路を昭和30年頃の蛍が生息していた頃の環境に戻す、などの考え方です。安定した好ましい生態系を人為的な管理によらず維持していくために、その場所にふさわしい環境の初期条件を用意するビオトープなども同じ系列の思想であると言って良いでしょう。
この手法は、全国各地で成果を挙げて、成熟した技術と言って良いレベルにあると思います。しかし、森林についてはどうでしょうか。現在(平成29年)、日本の森林の41%(1020万ha)が人工林です。
そのうちの69%(704万ha)がスギ、ヒノキ林です。では、時計を巻き戻してみましょう。植林される前はどうだったのでしょうか。明治期の写真を見ると、日本中至る所に、木の生えていない、いわゆる禿山が広がっていたことがわかります。
江戸時代から明治時代にかけて、日本の森林面積は今より大幅に少ない時代が続きました。一説によれば森林率29%(明治14年)(注1)、別の説では1670万ha(換算すると45%)(明治16年)(注2)とあり、いずれにしても現在の68%に遠く及びません。
昭和20年から30年代、建材としてのスギ、ヒノキの需要が高まるとともに、エネルギー源、特に家庭燃料としての木炭や薪が、ガス、電気、灯油に置き換わる、燃料革命とも言える状況が生じます。