拾って来た女
「昼休みに紅葉の話で盛り上がったね。今度どこかに紅葉でも見にドライブしようと思とんのやけど君も行かへんか?」
と誘いを掛けて来た。
マー君は日頃から不良のような雰囲気を漂わせおり職場での評判もあまりよくないことは知っていたが、日頃の単調な生活に倦んでいて刺激や変化を望んでいたこともあり、沙耶は「行ってもええよ」と深くは考えずに誘いに乗った。
ドライブは、菰野町の御在所岳だった。
伊勢自動車道を経て東名阪の四日市インターチェンジで降り、インターチェンジの出口を山側にハンドルを切ると御在所岳に行き着く。ロープウェイで御在所岳の頂上まで登った。
晴れていたこともありロープウェイから眺める山肌は錦繍に染まり初めて見る見事な紅葉に沙耶はすっかり感動した。帰りには小洒落たレストランでフレンチ料理を御馳走になりそれなりに楽しい一日を過ごすことができた。
このドライブを皮切りにマー君との付き合いが始まった。
マー君は、休みの度に沙耶を誘い出し、沙耶も回を重ねるに従って親切で優しいマー君からの誘いを心待ちにするようになった。
沙耶の生活はマー君との付き合いを中心として回りだし、沙耶は知らず知らずのうちにマー君に好意を感じるようになっていた。付き合い出して半年も経つと、行き着くところまで行った付き合いとなった。
沙耶は早く訪れた春にいくらか戸惑いを感じながらもそうなった日を境に揺るがぬ恋の始まりを確信し、相手のマー君は皮肉にも恋の終わりを意識しだすようになった。
その頃からマー君はデイトの費用を出し渋るようになり、喫茶店のお茶代も食事代もすべて沙耶の負担となった。態度も大きくなり、沙耶を顎で使うなど「俺の女」と言わんばかりに扱い出した。
沙耶はマー君の気に入ろうとして言うがままになり化粧も派手になった。しかし、始めの頃は頻繁に来ていたアパートにもマー君は段々と来なくなった。
マー君は、沙耶から受ける刺激も減り、こんな女に縛られたくないとさして美人でもない沙耶に飽きが来ていたのだ。頻繁だった逢瀬も何やかやと理由をつけられて回数も減っていった。
しかし、沙耶はマー君の心変わりに気がつかなかった。初めて身も心も許した男で、将来の夢も描いていた。男はマー君の他に考えられなかったのだ。
マー君は、デイトの費用だけでなく一万円、二万円と小遣いもせびるようになったが、近い将来には同じ世帯になるのだからと一人勝手にそう思い、沙耶はその度に応じた。