拾って来た女
熟練者にはモタモタと映る康代の作業を見てそんな嫌みをよく言われた。
しかし、時間が経つにつれて作業にも慣れ、コツも掴み熟練者と遜色の無い時間で捌けるようになった。作業をしているのは全員女性で、ステンレスの作業台に並んで座り魚を捌いた。
作業には慣れたが、夏場は何ともない作業も暖房を効かせられない冬場はきつく、爪先から上がって来る冷えに悩まされた。先輩に教えられ使い捨てカイロをゴム長靴の中に入れて作業をするようになると爪先の冷えはある程度は収まったが、それでも悴む手はどうしようもなかった。
しかし、そんな作業場も女性達に取っては楽しい社交場だった。作業場で動かすのは手だけで事足りたが女性たちはマスクで覆った口もよく動かし、つらい冬場の作業でも屈託の無い笑いがよく作業場に響いた。
康代は、午後四時に終わるきつい水産加工会社の仕事に体も慣れてくると、子供に夕食を食べさせたあとのグダグダしている時間をもったいなく思うようになり、近くの旅館かホテルの仲居に出ようかと考えるようになった。
そんな中、旦那がよく行くというスナックがホステスを探しているという噂をパート仲間から聞いた。
ホステスは仲居より時間単価が高く、こんなお婆ちゃんでもホステスが務まるだろうかと思ったが当たって砕けろとの思いでパート仲間に頼んでその夫に口を利いて貰い漁火で働くことができるようになった。
いつも眠気と体の怠さに悩まされているが、唯一二人の子供の成長だけを楽しみにしているのだった。
「お義母さんの言う通り、あのとき、喧嘩をしてでも何とかお父ちゃんを止めていればこんな苦労をせんで済むのにと思うと悔しくて仕方がないの。後悔先に立たずと言うけど全くそやね。でもこれも運命やったのかも。女は苦労するようにできているのよ、きっと」
康代はいつも話し終えるとそう言って明るく自分を笑い飛ばすのだった。もう一人のホステスの沙耶は自分の恋愛経験と面倒を見ている両親のことを屈託なくよく喋った。
沙耶は看護師として夜勤も含めて仕事に出る母に替わり小さいときから家事を熟した。細々とした家事に追われて家で勉強する暇はあまりなく、小学校、中学校と学業上の成績で褒められた経験は一度もなかった。