第2章 地域 都市と地方の関係、地方創生とは何か
2 都市の力と地方の宝
日本から見たシンガポールは、都市間競争において、紛れもなく東京のライバルです。
では、シンガポールから東京はどのように見えるのでしょうか。それについてシンガポール政府の方と直接お話したことはないのですが、かつて、仕事を通してそれを窺わせるエピソードにはいくつか出会いました。
シンガポールは1967年の独立以来に国策として「ガーデンシティ」を掲げシンガポールらしい都市景観の創出に取り組んできたにも関わらず、リピーターが圧倒的に少ないことに悩んでいると聞きました。
さまざまなアクティビティやコンテンツを開発するのですが、どれも歴史と地域性の裏打ちが無く、1回の訪問で満足されてしまうのだそうです。
単体での都市経営という観点の比較では、東京に対しシンガポールは圧倒的に高い効率性と戦略性を備えていると思います。近年の、築地市場の再開発や新国立競技場を巡る意思決定のゴタゴタが東京の都市経営のパフォーマンスをどれだけ損なったかが思い起こされます。
もちろん、シンガポールのような都市経営が東京にとって理想的かといえば、受け入れがたい面もあるかと思います。
しかし私が言いたいことは、シンガポールが生き残りをかけて都市経営のパフォーマンスを追求しているにも関わらず、非効率に見える東京を、なかなか突き放すことができていないということです。
私が知るシンガポールの関係者は、東京の背後に「地方」があるという、アドバンテージがその要因だと考えていました。
かつてシンガポールで現地の方に
「あなたが考えるシンガポールのドメスティックな魅力を教えてください」
と質問した時の
「シンガポールはコスモポリタンな都市なので、シンガポールの魅力は世界中の良いものが集まっていることが魅力です」
と答えられた方の伏し目がちな表情は忘れられません。
東京は、東京だけの力で世界の都市間競争を戦えているわけではないということを私たちは認識すべきです。
背後に東京の魅力を生み出す「地方」がある、それが東京の強みです。
ですから、東京は世界で勝ち残っていくためにも、アドバンテージとしての「地方」という後背地を維持、存続させ、その費用を負担してゆくべきなのです。