「学術界はもちろん、一人のノーベル賞受賞者の講演に興味を持つだろう。でも僕は、プランクがベオグラードに来る本当の理由は、テスラとの何かの関係のためではないかと勘ぐっているんだ」
「なにゆえに?」
「さあねえ……よく知られているように、テスラ研究所は最新の科学理論の実用化に最も適している施設だ。プランクはニコラ・テスラに対して何か具体的な提案をするつもりかも?」
「何か、例えば、世界から世界へ、世界の大河の中の一滴から一滴への移動方法をかね?」新聞記者の声は驚きに満ちていた。「かも知れない」
と、トーザの話し相手がほがらかに言う。
「でも理論から実用化に至るには何十年かはかかる。時には数世紀を要することもある。君か僕が、かつぎ人夫トーザを訪れて酒をおごるような可能性があるようには思えない。
あるいはかの有名な上官の……よりおとなしいバージョンを、ね。さしあたり、トーザ君よ。これらすべてのことを思いめぐらすしかない」
アンカは、椅子のキーキーする音、そしてすぐに仕切り席の革シートのきしみ音が耳に入った。それは、若者たちが立ち上がって、バーカウンターに行き、精算して「セルビア初紳士クラブ」から出ていくであろうということを意味していた。
彼らはしばらくアンカの近くのところに立ち止まった。イェヴレムという名の男は、新聞記者の肩に手を載せる。
「さしあたり、ドナウの岸辺にいて、そこで水浴する女性達もいる現実世界に我々はいることにしよう。明日は、彼女たちに声をかけてみよう」
新聞記者は満面に微笑みを浮かべる。そしてアンカの視線が自分に向けられているのを感じ、彼女のほうを向いて、はっとする。
別の若者にも見られていたアンカは、二人に愛想の良い微笑みを返す。ほとんど気付かれないくらいに頷いて、彼らに向けて青味がかったタバコの煙を吹き飛ばす。
男達はこの仕草に当惑しながらお辞儀をし、視線をそらしてバーカウンターそして出入口へと向かった。
暖かな午後のひとときに彼らが出ていくのを、アンカは遠くから微笑みながら見つめていた。
そして彼らが退出してから一、二分たった時に、すがすがしく快適なカフェーに、プリビチェヴィチ氏が急いでいる様子で入ってきた。