セルビア初紳士クラブ 一九一九年 ベオグラード

「ちょっと待って。自分がよく理解できているのか確認させて。つまり、プランクの考えでは、一つの太陽、一つの地球、一つのベオグラード、一人のトーザが存在しているのではなくて、無数のそれらが存在しているということ?」

「その通り」

と、この発言に満足してイェヴレムが答える。

「まさに、大河の一滴それぞれ一つの宇宙だ」

「そして一滴一滴がみんな、卵が別の卵と同じように?」

「うーん、それは……完全に一致しているのではない。現実世界はあまりにも多くの可変要素から成り立っているので、これらの想像し得る世界のそれぞれは全く同じになり得ないのだよ。そう、無数の太陽、無数の我々の星、無数のベオグラード、そこに無数のトーザが存在している。

しかし、何と言えばいのかな……全てのトーザ達はこの瞬間に舌鼓を打っていて、賢明で少し酔っているイェヴレム達のレクチャーを聞いて同じく馬鹿げた表現を浮かべてはいない。全てのイェヴレム達も年取ったひとりのドイツ人と彼のファンタジーについてレクチャーしているわけではない。

これらのトーザ達の中のある者達は、たぶん桟橋で重労働に従事して、船からコーヒーの荷を積み下ろしているかもしれない。一方、別なトーザ達は、ドナウの岸辺でゆったりと過ごして、恥ずかしがっている水浴女性たちを眺めている……結果は、全ての可変ファクターがこの我々の時間の流れに対してどう配置されたかによるのだ」

「もしそうなら、僕は水浴女性たちのいる現実世界にジャンプしたいな。君が僕をかつぎ人夫として描いた世界よりもな。そうすると、大河の全ての一滴一滴のなかで、君だってそんなに賢かったり、のんべえだったりしないかも……」

「全く君の言う通りだ。君の読者達は良かったねえ」

「あるいは……」

ひととき前まで想像もおよばない空想に酔いしれていたトーザは更に大胆なことを言う。

「たとえば、女たらしとお酒好きとして世間に知れ渡った、かの恐ろしいアピス大佐がいる現実世界が存在しているとする。その世界では、お酒を試したこともなければ、恥ずかしがり屋故に女性を怖がって、女性の魅力も知らなかったりして」

突然静かになり、アンカも声を出さずに微笑まなければならなくなった。

若いエンジニア、イェヴレムは、明らかに友人に黙るように無言のサインを送った。トーザはうがいのような音、ごくごくと音を立ててグラスを飲み干した。

アンカはそーっと他のテーブルを見回した。大佐がこのような不適切な言われ方をされていることに客が気づいていないか、と。

アンカの背後で話していた者たちも、このことを意識し、それまでの会話は取るに足らないといった風に話を続けようとするような雰囲気があった。

「とにもかくにも」

と、新聞記者が少しはっきりしない声で言う。

「それはな。老ラザル・コマルチチ先生を代表とするサイエンス・フィクション仲間で徹底的に議論するべきことのように見える。でも、この多次元宇宙世界がどうしてそれほどまでに一般人にとって重要なのかな」

「わからない」

と、イェヴレムがそっけなく答える。