彼らの視線はストリートの隅々までに行き渡り、意識はつねにMocaに向かっている。NYPDは、昼も夜も彼らの縄張り一帯をゆっくりと走り続ける。最近では、私服警官の数も増えてきているらしく、彼らはだいぶ神経質になっているようだ。

Blue Alizeをちびちび飲みながら、くだらない話で盛り上がっている間にも、彼らはブツを売り続け、一人でも多くの客を獲得しようとストリートに目を見張らせる。ほんの数時間でBillはどんどん厚みを増していく。彼らは何度も何度も金を数える。

その様子を心配そうに見つめながら黙って通り過ぎる人もいれば、露骨に不快な表情を浮かべ、足早に通り過ぎて行く人もいる。自分たちと同じHoodで生活する人たちの思いを知ってか知らずか、彼らは構わずに短時間で大金を稼ぎ続けるのだ。

“This is good shit.(これ、いいブツだぜ)”。

一人の男性がWeedを吸い始めた。20歳そこらのこの若者は、調子に乗ってさまざまな種類のハッパを次から次へと巻いては仲間と回しあいながら吸い続ける。私を強引に口説いてくるこの若者。

「キミも試してみる?」

彼がそう言って新たに差し出したものは、白い錠剤で、エクスタシーと呼ばれるドラッグだ。

「やらない」

「やろうよ」

「やらない」

「少しだけ」

「やらないってば。絶対に嫌。」

私は断固として拒み続けた。彼は立ち上がり、白い錠剤が包まれた小さな紙を車の屋根の上に置き、それを静かに開く。車の鍵でその錠剤を粉々に砕き、小さなかけらを口にさっと含んだ。私の心の中を見透かしたように彼は言った。

「あぁ、そうだよ。身体に毒だぜ。早く死ぬって言うんだろ? どうせ死ぬんだしよ、いいじゃねーか(I’l die, anyway.)」