前編

十月の秋晴れの休日、暑さも和らぎ風も気持ちいい日であった。

私は前と同じように、彼女の家の方面まで迎えにいった。今回彼女は待ち合わせの駅の駐車場へ車ではなく電車で来た。

あの菜の花畑のある半島とは逆方向だったので、彼女が私の家の方面まで電車でいこうかと言ってくれたが、少しでも彼女と長くいたかったため、私が「迎えにいくからいいよ」と言い張った。

彼女は「わざわざありがと」と言ってくれた。

彼女と二人で会うのは二回目だったので、会う前の緊張感も少し和らぎ自然体でいられた。長い道中も相変わらずいろんなことを話した。

やっぱり彼女といると、楽しくて嬉しいのだ。いつも波乗りへ向かう同じ道中の景色も色鮮やかに見える。昔、このピックアップの助手席は、私の特等席だった。

これからは、「彼女の特等席」になったなら……と、助手席に座る彼女を見て思った。

彼女は今日、半島へ出かけることを母親に話したらしく、

「あんたらがまだ小さい頃、旅行したとき、半島の菜の花畑に寄ったんよ、憶えとる?」

「憶えとらん」

彼女がそう答えたら、お母さんは昔のアルバムを引っ張り出して、菜の花畑で撮った写真を見せてくれたのだという。

その写真の一枚を持ってきてくれていた。

彼女は私に

「見せようと思って」

と言い、私にその写真を手渡した。その写真には菜の花をバックに笑顔で写る彼女と彼女の妹の姿があった。

彼女はポニーテールだった。私は昔、あの菜の花畑で見たあの家族のことを思い出した。彼女の写真からはどこの菜の花畑なのかわからなかったので、まさかとは思いながらも、その写真を撮った場所を彼女に訊いてみるも、

「知らないんだわ、そもそも憶えてないし」

「そっかぁ、憶えてないかぁ」

私は苦笑いしながらそう答え、その写真に入った年月日を見た。私の描いた菜の花畑の絵の裏にも年月日を記していたので確かめてみようと思った。

あの菜の花畑は私が波乗りする場所から随分手前にあった。今日はその菜の花畑を見て、そのあと半島の先の岬までいこうということになった。

あの菜の花畑に着くと、菜の花はやっぱりまだ咲いておらず、わかってはいたものの、少し残念そうな表情を彼女は見せた。