二カ月後を目指して

私たちのクリニックの朝は、自宅療養にかかわる多くの職種が全員参加するモーニングカンファレンスで始まります。

医師、看護師、リハビリテーション職員(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)、薬剤師、ケアマネジャー、ヘルパー、管理栄養士、鍼灸マッサージ師、医療ソーシャルワーカー、事務員、などが一堂に会します。

Fさんもこのカンファレンスで全員に紹介されました。職員それぞれが自分の職種として何かできることはないか……と聞き入っています。ひととおりFさんの病歴が紹介され、家族の話題に移りました。

そして約二カ月後の五月初旬に、お孫さんの結婚式があることが告げられました。当然Fさんも出席したいはず……。しかし、あと二カ月もある……。その場には重い空気が流れていました。

二日後に結婚式があるというのであれば、職員全員がそのサポートの具体策を考えはじめたでしょうが、二カ月という時間はFさんにとっては高いハードルであるように思われました。

栄養・酸素・疼痛ケアを一つずつクリア

食道の通過障害で固形物は食べられませんでしたが、食物を飲み込むこと自体に問題のないFさんは液状の栄養剤はしっかり食べられました。当初より疼痛の訴えはありませんでしたが、強い全身倦怠感に対し医療用麻薬やステロイドが有効でした。

結婚式出席を可能にするための胃瘻造設も検討されましたが、現実性に乏しく危険性も伴うため、また本人の意見もあり、断念しました。

結婚式まであと一カ月と数日となった三月下旬に呼吸苦が増し、在宅酸素療法が導入されました。Fさんにかかわるすべてのスタッフは祈るような気持ちで病状の変化を見守っていました。

しかし幸いなことに、Fさんの経口摂取量はほとんど減少しませんでした。そして結婚式まであと二週間ほどとなった四月下旬、Fさんは「披露宴はダメでも結婚式には出席したい」と高らかに意思の表明をしました。