当初黒川温泉から湯布院温泉の移動にはバスを利用するつもりでいましたが、早朝に出発することができれば、その日のうちに由布岳に立つことが可能です。バスだと早くて午前中の11時ですから、それ以外に方法があればいいことになります。
黒川温泉の宿で朝食を済ませたその直後にタクシーに乗れば、その日のうちの由布岳登山が可能でした。事前にタクシーの料金を確認し、自分なりに踏ん切りもつけました。
連れでもいたら費用を分担でき、もしも妻が一緒だったら尚のことよかったものの、時と場合によっては大枚はたくのも必要かもしれません。北海道の幌尻岳遠征の時にもそうでした。目的を果たすための他の手段がなければ、選択肢はないのです。
黒川を発ったら湯布院のホテルまで直行し、余分な荷物を預け、コンビニで買い出し。
その足で登山口へと向かいました。それでも13,000円で収まり、今回は最短コースで山頂を目指しました。
ミヤマキリシマの開花はここでも最盛期とはならなかったものの、せめて及第点には達したかという自己評価でした。夕刻にはホテルまで下り、今さっき自分が立っていた由布岳を見上げつつの湯浴みは、実際に体験した者だけが味わえる、金銭価値には換算できない充足感です。
翌日には迷うことなく日田へ、鉄道マニアではないながら久大本線に初めて乗車することにもなり、レトロな街中を体力に任せて歩き回ることもできました。名物だという焼きそばを生ビールとともに味わい、廣瀬資料館でも有意義な一時を過ごすことになりました。
タクシー代の13,000円に加え、電車賃や日田でのタクシー代など、それなりの出費は避けられませんでした。
それが高いか安いか、私だって決して安いとは思いません。
私とて庶民であり、親からの援助や高額な遺産を受け取ったわけでもなく、普段の生活の中でやりくりし、登山や旅をするために切り詰めて自分流を貫いている。ただその中で、経費と自分の満足度とを天秤にかけ、推し測っているのです。それに、ここで語りたいのは金銭のことではなく、旅の進め方です。
気まぐれ、大いに結構です。計画通りに進めることも大事かもしれませんが、そのまんまでないこともまた良しです。旅の途中で、違う引き出しを出すことで面白くもなり、一味加わることにもなる。芝居のように、演出ひとつでどうにでも転ぶ可能性があります。旅において、演出家は自分なのだと深く自覚しておく必要があるのかもしれません。