5泊6日という日程で、九州の旅を計画します。前半の3泊で熊本の黒川温泉、そして後半の2泊は大分の湯布院温泉に泊まるという旅で、これだけだと単なる温泉旅行です。
実をいえば、九州本土の最高峰である九重山と湯布院のシンボルである由布岳を目指す山旅であり、どうせなら温泉をベース・キャンプにしてしまおうという欲張りな発想でした。
双方とも過去に登頂の経験はありましたが、再登頂を決意したのにはそれなりの理由があります。九重山に限っていえば、前回には天候に恵まれたとはいえない山行で、九重(久住)山というピークには立ったものの、この連峰の最高峰である中岳には立てずじまいでした。なもので、今回は最高点に立つことを最重要視していました。
また、由布岳ですが、こちらも前回とは違うルートを辿ること以外に、九重山にも通じるある目的がありました。というのも、前回の由布岳登山の時にも利用した湯布院温泉のとあるホテルで、その従業員の方に「初夏には山が真っ赤になる」と吹聴されていたのです。
真っ赤といっても、初夏なのですから、無論紅葉ではありません。九州には、九州でしか見られないツツジが、この時季に咲き誇ります。『ミヤマキリシマ』で、この花が満開になったその時こそ、山全体が真っ赤に染まることがあるのです。私はそうした光景・瞬間を写真でしか目にしていませんから、それを実際に自分の目で見てみたい、写真に撮りたい、そう思ったのです。天候や体調が悪くても、この2つの著名な温泉地でグダグダしていたとしても元は取れるはずでした。
九州入りした2日目にはいよいよ九重再挑戦となりましたが、前回同様の空模様となり、深い霧と強風で呆気なく断念することになります。それでも3日目にはこれ以上はないという好天に恵まれ、中岳登頂を果たすとともに、前回とは異なるルートを辿ることができました。ただ、この年には桜が開花した後に低温状態が続き、ミヤマキリシマの開花状況が芳しいとはいえませんでした。それなりに咲き、それなりに満足・納得はしましたが、標高の低い方の由布岳に期待を持ち越す格好となりました。
体調も天候も、何とかなりそうな手応えでした。ただしひとつだけ、課題といおうか、この山旅の付加価値部分として付け加えておきたいプランがありました。大分県の日田市に廣瀬資料館という施設があり、私の中学校の恩師の学友がそこの関係者であったので、そちらにも足を延ばせればと考えていたのです。
登山がメインの旅とはいえ、もう一味加えることができたら、儲けものです。
最終日には大分空港へ直行するしかなく、となれば猶予は2日です。そのうち1日を黒川温泉から湯布院温泉の移動に充てるとなれば、残る1日は由布岳登山に取られる。そうなれば日田へ足を延ばすことは不可能になり、味つけは果たせないことになってしまいます。