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バス停に降りたのは昼過ぎだった。
高原といっても甲府よりやや気温が低いぐらいだったが、太陽がじりじりと身に沁みた。持ってきた荷物が肩に食い込んでいた。
新しく買った青いリュックには、米が五キロ、クーラーボックスにはバーベキュー用の肉が六人分。
自分の寝袋などの身の回り品の重さはたいしたことはない。
「おい、食料買いすぎじゃないのか」村瀬がぼやく。
「それくらい、我慢しなさい」ケイコさんが元気な声でハッパをかけた。
彼女はサンタの会社でイラストの仕事をしている。今年、村瀬の大学を入れ違いで卒業していた。朱美や香子を誘ったところ、彼女が監視役でついてきたのだ。たぶんサンタの命令なのだろう。
朱美も香子も、パンパンに膨らんだリュックを苦もなく笑顔で運んでいる。
途中からアスファルトの道がなくなった。白樺の林が続く。足下の土は濡れていて、どこからか清らかな瀬音が聞こえる。
やがて小さな川が現れる。
先に川を渡った園田が、朱美に手を差し延べた。
「きゃっ」と、小さく叫ぶと朱美は川を飛び越えた。園田は香子にも手を差し延べた。
園田の態度にぼくは舌打ちをした。
「もう少しだから、頑張って」とケイコさんがずっと先から呼び掛けた。
Tシャツは汗でぐしょ濡れになっていた。
「あと少しって?」と村瀬がわざとらしい情けない声で訊く。
「あと一時間ぐらいかな」とそう言って笑うと、ケイコさんは颯爽と先を歩いて行った。
「バッカヤロウ」と村瀬も笑いながらリュックを背負い直し、後に従った。
歩みを進めると、森の風景は変化した。
木陰のその辺りには、苔むした倒木、見知らぬ茸の類、白い小さな花の群落などが見られた。道端に毒々しい色の百合がひっそりと佇んでいる。
植物の知識のないぼくは名前も分からず、自分の不勉強が口惜しかった。また、ここに残ってひとりでスケッチをしていたいとも思った。朱美と香子はケイコさんに追いついて、楽しそうにおしゃべりをしていた。
「徹は、体力ないよな」
クタクタになって息が荒くなったぼくに、村瀬の言葉がいちいち勘に障る。
ようやくサンタのログハウスの屋根が見えた。元気なケイコさんのせいで休憩は一回もなかった。軒下にリュックを放り出し、ぼくは砂利の上に大の字に転がった。
「だらしねえなー」と村瀬の声がした。
「ひ弱な浪人生だもの」と香子が目を閉じているぼくを上から覗き込んで言った。一瞬光が遮られたことが分かった。だけどぼくは眼を開くことはできなかった。蜩が聞こえる。冷ややかな風を感じる。ぼくは指一本動かせずにいた。
園田が、ひょいとクーラーボックスを持ち上げ、持っていった。体が火照っているのが分かった。
郭公がどこかで鳴いている。高原の夏の日射しは比較的優しかった。砂利の上でぼくはいつの間にか眠っていた。