運送会社の課長は、
「この派遣に運送料は出るのですか? 先日のオーストラリアの方へいらっしゃる先生は本当に小さなお荷物でした」
と、いうので、美沙は
「どの地も一律に出るようですが……」
と、答えると、彼はそれ以上何も言わなかった。美沙たちは少し向こうでゆったり暮らしたかったせいもあるが、送り出した荷物にかなり費用をかけた。
それが正しいかどうかはまだこの時点ではわからなかった。
平田よう子は「どこへでも付いていくわ」とばかりに張り切っていたが、いざインドの状況を知れば知るほど、幼いメイ子を伴って渡印するということに不安材料がいくつも重なり、しかも同僚たちに
「もったいないなあ、よう子さん、教員を辞めていくの? そんなところに」
と言われたりすると、
「私はメイ子とこちらに残ろうかなあ」
などという弱い気持ちまで湧いてくるのだった。
よう子の実家の方でも、幼い孫のメイ子との別れが辛かった。
それ以上にインドという衛生環境の悪いといわれる場所に連れて行って、病気になったらどうするのだ、という思いが強く、優しい夫の久雄には悪いが、よう子の決断が鈍っているのを感じて、引き止めてしまいそうになる。
だが、美沙と何度か電話で話していたよう子には、彼女が同じ仕事を辞めてしっかり夫についていこうとしているのだから、こちらもそれに負けてはいられない、という思いもあった。
結局、夫の久雄の献身的な準備と家族への愛情が勝って、よう子はインド行きを受け入れた。
よう子の実家の母親は娘と孫のために、日本の食品をできるだけ持たせてやろうと奔走していた。初老の母は年の功で、こんにゃくの素や、手作り豆腐セット、納豆菌など珍しいものを集めてきた。
孫のメイ子は納豆が好きなので、大豆があるというデリーでも納豆菌さえあれば、作って食べさせてやれると考えたのだ。仕事で忙しい娘よう子の代わりに一生懸命インドの情報を集めて準備していた。