俳句・短歌 歌集 2021.03.24 歌集「日々、燦々と」より三首 日々、燦々と 【第14回】 飯田 義則 50年近く弁護士として活動した著者の急がず、惑わず、実直に生きた78年間の人生が詰まった短編集。 先行きの見えない不況や震災などで何かと暗い話題が多く、希望や生きる活力が見いだしにくい世の中にあって、生きることの素晴らしさ、日々の美しさをもう一度気付かせてくれる短歌集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 夏の夜の 微風に和する 風鈴の 軽やかな音ねに 心たゆたう 炎天に 餌を求むるか 黒蟻は 草抜く我を じっと見上ぐる 蝉の声 鳴かずすず虫 庭に鳴く 月の光の さす庭にして
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『赤い大河』 【第5回】 塚本 正巳 もしかして私と彼を別れさせた自称間男は、男ではなく、女かも?ある人物が思い浮かび… 「ねえ、今どこにいるの。雹がすごい音を立てて降っているんだけど、そっちは?」冬輝は一言、ああ、とだけ答えて電話を切った。同じ雹の音を聞く距離にいながら、同じ子の親でありながら、この人とはもう二度と会うことはない。冬の夜明けを思わせる鋭利な確信が、凍えた心に深々と突き刺さった。何日も部屋に閉じこもり、冬輝をたぶらかした悪意の出所を探し求めた。店内に携帯電話を持ち込んだことはないので、自称間男が過去…