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第16話 時間旅行
「お前の本来の目的は終戦間際だったんだな。間違って8月6日の広島に落ちてきて……TENCHI、未来の指令者からもOKが出たのか……」
「ノーコメントです。何回も言うようですが、私の指図と違った行動を取ればわたしも消滅しますが、あなた方も消滅します、歴史からも……」
TENCHIは赤い目を点滅させる。
「分かったよ、お前の言うとおりにするよ」
「わたしもアツシも一度死んだ身、後悔はない。さくらさんも同意して一緒に行ってくれる」
「わたしも先日、社長職を退いた。豊日自動車は、これからの時代を担う若手社員に全て任せる。自動車産業もこれからは、低公害自動車から、ガソリンを使わない車、衝突を防ぐ安全な車といろいろ出てくるだろう。わたしは今の世の中でやるべき事はすべてやった悔いはない……」
「それじゃ、TENCHI、さくらさん、行く前にちょっと着替えてくるな。アツシ頼む」
屋上の階段の陰でシマとアツシは着替える。
「ちょっと、スカート短くないか」
「戦時中と同じですよ。シマさん、それとトレードマークの海軍の船形帽もかぶってください」
「私は、ブカブカですが……」
シマとアツシは日本海軍の軍服に着替えている。アツシは屈み、黒いケースから2体の透明のボディスーツ『特別強化戦闘服甲号』を取り出しガスを入れる。
「さすがシマさんの作品。戦前の設計なのに現在の科学力でもこれを作るのは大変でした。わが社(豊日自動車)の研究室の総力を挙げて作りましたよ。シマさん、あなたは本当に天才だ……これの設計方法をまだ頭に入れているなんて。アメリカ政府の高官も日本の総理は核爆弾も自分で作ることが出来ると噂してましたよ……」
「ハハ、買いかぶりすぎだ。私は政局もコントロールできないバカ総理だ……しかし、時がたつにつれ応援してくれる人も増えてきたような気がする……」
「そうですよ……核兵器のない平和な世の中の実現に、これからもシマさんの力が絶対必要です」
アツシはシマにニコリと微笑んだ。シマも笑みを返す。
「さくらさんもこれを口にくわえて」
携帯用の酸素ボンベをさくらに差し出す。
「特別強化戦闘服甲号、このボディスーツにわたしとさくらさんが入るかな……」
「2人とも細身なんで、ギリいけると思います」
「定員は2名ですが」
「わたしとアツシは若返り、さくらさんは赤ちゃんになる、大丈夫だ……」
「それで、紙おむつと抱っこ紐か! リュックに入れてますよ」
「さくらさん、たぶん赤ちゃんになるんだけど……いいんだな」
「はい、かまいません」
「さあ、時間旅行に行こうか!」