第1話 一瞬の光
眩い一瞬の光にシマは立ちくらんだ。ドンという鈍い音で、その物体は、夏の陽を浴び青々と稲穂が伸びる田の中に突き刺さっていた。
銀色の鋼のような物体。シマはとっさに爆撃機からの爆弾だと思ったが、上空には爆撃機らしい機影はなかった。
そもそも爆撃機が来襲したら、サイレン音がけたたましく鳴るはずである。何か突然得体のしれない物体が空から落下したとしか思えなかった。
彼女・浦(うら)シマ(26歳)は大日本帝国海軍の女性通信兵。淡い紫色の船形帽(ギャリソンキャップ)がよく似合うすらりとした長身の女性である。日本の軍隊では女性兵自体かなり珍しい。
敵アメリカ軍の通信を傍受・解読、研究する極秘の任務に就いていた。上官に報告すべきか迷ったが自身の好奇心から、背負ったリュックの中の長靴を取り出しスカートをたくし上げ朝陽に輝く水面の田の中に入った。
泥だらけのその物体は、ところどころひび割れ傷ついていた。医療用手袋をし思いっ切り引っ張ってみると大きさの割にかなり軽いように感じた。
重さはほぼ10キロぐらい……地球で創られたものだろうか……シマは一瞬想った。泥の中から全体を出してみると、長辺で1メートルぐらいの甲羅のような形をしていた。
第2話 先輩(浦上等技術兵)
「浦上等兵、何してるんですか~~!」
「ちょっとね」
シャーッと水飛沫を上げシマは基地の外の蛇口で煙草を吹かしながら、亀の子タワシで甲羅のような物体を洗っていた。ミーン、ミーン蝉がここぞとばかり鳴いている。
「変わった形をしてますね。これ日本海軍の新しい秘密兵器? それとも新型の通信機器ですか?」
「まあ、そんなものか……」
「それより留守の間、緊急通達が入りました。軍令部より昨日付で黒田(くろだ)上等技術兵長と丸(まる)一等兵が鹿屋(かのや)航空基地に召集されました。ここの責任者はこれから浦上等技術兵ということです……先輩、おめでとうございます……といっていいものか……」
菊池涼子(きくちりょうこ)一等技術兵はまだおさげ髪が可愛く似合う十代の女性通信兵である。