第3話 狐の巣
「久しぶりの狐(きつね)の巣のいごこちはどうですか?」
「まあな……」
シマは軍服の上から白衣をはおった。ここは当初大日本帝国海軍の通信基地でもあったが、戦況悪化に伴い小さいながらも軍事兵器の研究開発も行っている。基地の中は、薄暗い蛍光灯の中、通信機器が点滅する。
周囲を石垣やコンクリートで囲まれ、小さな窓から蝉が鳴く木々が見える。周囲を草木に覆われ、上空からだとここが軍事基地だとは分からない仕組みになっている。この通信基地は三国同盟ドイツ軍指令所の『狼の巣(砦)』にあやかって、敵を欺く狐……日本海軍の名もない秘密基地は俗称『狐の巣』と呼ばれていた。
暫くして、シマはあたりを見回し。
「もう、ドイツも降伏したよ、三国同盟もお終いだ。それと、アツシはどこにいるんだ」
「へへっ……」
机の下から、いがぐり頭の顔を出す。まだ、あどけなさの残る少年兵・鈴木アツシ二等兵である。
「はい、これっ」
リモコンのスイッチボタンのようなものをシマに渡す。
「やっと、出来ましたよ、自爆装置。これを押したら、この『狐の巣』は木っ端微塵です」
「バカなものを作るな!」
ドスンとシマは持っていた甲羅を落とし、アツシの頬を思いきり叩いた。たまらず、きゃしゃな体のアツシは甲羅の上に腰を落とした。