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Money,Power&Respect(金とパワーとリスペクトと)

私たちは、もと来た道をゆっくりと引き返していく。先ほどの場所へ戻るためには、途中、ストリートを横切り、反対側の歩道に渡らなければならない。横断歩道や信号は彼らにとって、大きな意味を持たない。容赦なく車が行き交う通りを、恐れることなく堂々と横切って行く。どんなに車がスピードを出して走っていても、お構いなしなのだ。逆に威圧された車の方が驚いてスピードを緩め、停車してしまう。

何人もの若者がBに声をかけにやって来る。悪名高いGgangsta も、いまやHood の一躍ヒーローだ。Bが呼びかけに応じ、立ち止まると、老若男女問わず、次々に彼を取り囲む。たかが、2ブロック分の距離を歩くために、帰りは15分以上かかった。

自分の才能を開花させるか否かは、結局は自分次第。チャンスを自分の手で掴み取るためには、つねにアンテナを張って、感性を研ぎ澄ませていなければならない。どんなThug であっても、自ら呼び寄せた運に乗っかり、成功した暁には、大金だけでなく、Power とRespect も同時に手に入れられる。私はBを見て、そう感じた。彼がいままで、どんな生き方をしてきたのか、詳しいことはわからない。Gangsta Familyに生まれ、ハーレムで育ち、「何もなかった(I had nothing.)」人生を、罪を重ねながら生きてきたのだろうと私は想像を巡らせる。犯した罪は必ず償われるべきだ。しかし実際、多くの人間が、貧しいままに一生を終えてしまうHood では、Bのような存在が、ある意味、人々の希望であり、夢(ストリート・ドリーム)となりうるのだろうか。

自称レイシストではない彼の姿が見えた。Bは白の紙コップを一人ひとりに手渡すと、茶色の紙袋からボトルを取り出さずに、そのまま慣れた手付きで蓋を外した。ボトル口近くを力強く握りながら酒を一人ひとりに注ぐ。しばらくして、Bが静かに私に尋ねた。

“You like indoor?(中に入るか?)”