第3章 上肢をはずす

次に手首の関節に移る。

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前腕の手の平の側で、既に切断している浅・深指屈筋をめくりかえしたり、長母指屈筋、方形回内筋などを剝がし、骨間膜を剖出し、橈骨と尺骨の連結を見る。ここでは骨学の知識も重要になってくる。

船状骨、月状骨、三角骨など8種類の手根骨、ついでに指の骨も復習する。自分の手の皮膚の上から押さえて、確認してみようとするが分かりにくい。

ここでは入り組んだ多数の、どの筋肉の腱がどの骨に起始、停止しているかが、特に重要になる。そして、多数の関節面を支点に骨の運動が起こる。人間を人間たらしめる、繊細で微妙な手や指の動きの仕組みがわかるのである。

どんな筋肉なのだろうと、注意していると、虫様筋などは、薄っぺらい、テープか紐のような筋肉だ。こんな弱々しい筋肉が本当に役に立っているのか、と思う程に薄かった。

手のひらの内部では動脈が半円を描いていた。脈を計る時に用いる、親指の付け根の近くの部分に有る橈骨動脈が、それと平行に上腕を走る尺骨動脈と結ばれて、いわゆる動脈弓を作っている。

しかも、浅部と深部で2重に重なっている。指を曲げたり伸ばしたりしている筋肉について調べる。さきほどの虫様筋と骨間筋が、基節を曲げ、中節と末節を伸ばす運動に関わっている。

神経の支配関係も重要だ。各指によって、支配する神経が異なる。上腕と前腕の総ての伸筋は橈骨神経、上腕の屈筋は筋皮神経、前腕の屈筋は正中神経、前腕の一部の屈筋と手の大部分の筋は尺骨神経が支配している。

手の皮膚の知覚神経領域は、重複部分もかなり有るものの、固有領域も有る。これは、神経麻痺の診断の時、手の皮膚の知覚を調べる事で、どの神経の麻痺か、見当をつけるのに重要である。

例えば、正中神経が麻痺すると、親指と小指を合わすことができない、猿手という状態になる。尺骨神経が麻痺すると、指を曲げてしまって伸ばせない、鷲わし手となってしまう。

一体こんな事が何の役に立つのか、と思うほど細々した事を調べなくてはならないが、本当は重要なことを今は知らないだけなのだ、と思うと手は抜けない。

ともあれ、上肢の部はこれで終了し、次からは体壁へ移る。

これでいいのだろうか、と不安になるが、与えられた時間は確かにあまりない。更衣室へ四人でゆっくりと向かい、実習着を着替える。