第二章 拾って来た女

美紀が岬の高台に出掛けた母の命日から二月ほどが経ち、志摩地方も梅雨の季節を迎え、雨のそぼ降る鬱陶しい日が続いていた。

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その日は漁火の二階の部屋で雨音を聞きながら目が覚めた。

「今日も雨か」と思いながら美紀は憂鬱な気分になった。雨の日は喫茶店やスナックの客足が伸びないのだ。観光客の来店などは雨に祟られここしばらく皆無に近い状態だった。

「今日は喫茶店を閉めて気晴らしに鵜方に買い物にでも行くとするか」

降る雨は美紀の働く意欲まで萎えさせた。そんなことを思いながら美紀はパジャマのまま階下に朝食の用意に降りた。夜遅くまでスナックを開けていることもあり美紀の朝食はいつも遅い。

昨日もグダグダと管を巻こうとする最後の客を宥めすかしながら送り出し、店の後片づけが終わったのは午前零時半を少し回っていた。家庭の事情がわかっている二人のホステスたちはどれだけ遅くとも夜十一時半までには帰すようにしている。

ホステスたちが帰ったあとは美紀が一人で閉店時間の午前零時まで残った客の相手をし、後片づけまですることになっている。それほど出せない賃金ではホステスたちにあまり無理は言えない。言えば長くは続かない。こんな田舎町ではホステスの確保は大変なのだった。

朝食は、一階の店とは別の部屋に誂えた台所兼食堂で味噌汁をサッと作り、冷蔵庫から取り出した昨日の夜の残り物をおかずに済ませる。

食べさせる家族でもいればホテルの朝食とまではいかないまでも卵焼きと魚の干物ぐらいは追加するのだけど思いながらも一人で摂る朝食にはそんな意欲も湧いて来ない。母親を亡くしてからの朝食はいつも半端なものだった。

美紀は残り物を口に運びながら家族のいない起き伏しの空しさをつくづくと感じるのだった。外は止む気配の無い雨が降り続いている。朝食を済ましてもまだ体に気怠さが残りスキッとした気分にはならない。雨の日は特にそうだった。

朝食の後片づけを済ますと二日ほど部屋干しにしている半袖のブラウスとジーンズの乾き具合を確かめて着替えた。いつものバッグを抱えると店の裏に停めてある車まで軒伝いに小走りに駆けた。