第二章 拾って来た女
ショッピングセンターを出ると降る雨の中、少し車で走り何度か来たことのある国道沿いの小洒落たレストランに入った。玄関近くに置かれた生簀代わりの大きな水槽には鯛や鯵、鰯などが泳ぎ回っている。
美紀は、奥の窓際の席に腰を下ろすと客商売の習性からかすぐに店内をぐるりと見回した。この雨が祟っているのか昼食時にしては客の入りはそんなに多くはなかった。
チラホラと座席に散らばる客の中に地元の人間とは少し違う雰囲気の女が四人掛けのボックス席に座り一人でポツンと食事をしている姿が目に留まった。女は際立った色の白さをしていた。
入り口付近の窓際の席でこちらを向いて座り、時々窓から雨の降る景色を眺めながら海鮮料理を食べていた。美紀は伊勢海老の造りがついた手捏ね寿司のセットを注文し、食べながら見るとはなしに女を眺めた。
女も美紀の視線を感じたのか二人の目が合った。女は若くて美しかったが、その視線には言いようのない暗さが宿っていた。垢抜けした風情と着ている高級そうなワンピースは女が都会から来た観光客であることを語っていた。しかし、美紀にはこんな雨の日に女が一人ここまで観光に来たとは思えなかった。
美紀は女が気になった。外見は華やかだが、思い詰めたような表情で箸を口に運ぶ動作も緩慢で、体からは自分一人がこの世の不幸を背負っているとでも言いたげな暗いオーラを放っているように感じたからだった。
女は食事を終えレジを済ますと重い足取りで店を出た。美紀は女を窓越しに目で追った。女は降る雨の中を傘も差さずに国道の方へ歩き出した。おかしい。美紀の第六感がそう呟いた。
女の行動が二十年ほど前の自分の姿と重なった。死のうとしているのに雨に濡れることなどどうして気になろうか。騙された結婚だとわかり、思い描いていた未来が脆くも崩れて絶望的な気持ちになり、雨の中を死に場所を求めて彷徨ったことが蘇ったのだ。