実際、彼の頭の中はいろいろな考えが入り乱れ、怒り、悔しさ、哀しみ、後悔――轟ごう々ごうと逆巻いている。
――縄文人たちは、最初っから貨幣狙いだった。
これは林にとって衝撃のポイントだった。――これまで、彼らはいつだって食料を気にしていた。それが貨幣目的だったってことは、それだけ貨幣が流通しつつあるということだ。
ぼくたちは、貨幣を始めることで幸せになるつもりだった。確かに喰うには困らなくなったが、それと引き換えに縄文人の考え方や価値観を大きく変えてしまった。
ぼくらが貨幣を始めなければ、縄文人の価値観はそのままで、いたずらに罪人をつくることもなかったかもしれない。それどころか、貨幣はぼくたちの生命の危険を招いた。
「お金は富の不平等を生み、争い巻き起こす」――沼田君の言った通りじゃないか。
林は沼田の顔を思い出した。
――彼と早坂君がぼくらを殺してまで止めようとしたのは、ちゃんと理由があったんだ。こうなることがあの二人にはしっかり見えていたんだ……それなのにぼくらは、彼らを追い出してしまった。林は頭痛を堪えるように両手でこめかみを抑えた。
「林、ユヒトたちが今日は泊まってくれるってさ」
盛江の声がした。林は黙ってうなずいた。離れたところで、ユヒトが女子らをなだめているのが聞えた。