林はためいきひとつ、しゃがみ込んで頭を抱えた。
「ああ、こんなことになるなら貨幣なんか作るんじゃなかった」
「その縄文人は、きみたちの言葉で『カヘーをよこせ』と言ったの?」
「そうだよ。だからきっとここに来ていた誰かだろう」
「おお、ユヒト」
盛江の声がした。彼も怯えた様子で、顔じゅうに玉の汗を浮かべている。
「殺されるかと思ったぜ。もう少しが早く来てくれてたら、みんなでやっつけることができたかもしれないのに」
ユヒトは二人に向かい
「やられたらやりかえそう。他の集落から仲間を集めて、貨幣をとりもどすんだ」
「でもどこの奴らか分からないぜ」
「しらみつぶしに調べていけば、きっと分かるよ」
「二人とも待ってくれ」
林は弱々しく言った。
「この件でこれ以上事を荒立てたくない」
「お前、本気かよ」
盛江は叫んだ。
「強盗だぜ。ホントなら警察に突き出して、牢屋にぶちこむところだ」
ユヒトも声を荒げ
「一度そういうことを許したら、何度もつけこんでくるぞ」
「分かっている」
林は顔を歪め、泣き出さんばかりだった。
「ちょっと頭を整理したい。時間をくれ」