猫座敷の裁判
「あのね、よく知られている話なので知っているかもしれませんが、ヒットラーは演説の天才でした。世界的な不況を利用し人々を洗脳してしまいましたが、もう一つ決め手がありました。声です」
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「は?」
「声です。声、もちろん声紋についてはご存じでしょう。指紋と同じく人間一人にひとつずつしかありません。それからヒットラーの声紋がジョン・レノンの声紋に酷似していたのご存じでしたか?」
「いや、知らなかったです」
「つまりですねぇー。人を引き付ける声というのがあるんですよぉー。だからもしバンドなんかを組んでいれば大成功したかもしれないんですぅー」
まだ何を尋ねるべきかわからなかったのでとりあえず聞いておく。メタタアコの表情がこころなしか悲観的に変わってきたこともある。
「でも戦略的には彼は天才ではなかったんですぅ。世界は広い。ほかにも演説の天才イギリスからチャーチル、フランスのシャルル・ド・ゴール、そしてルーズベルト、それから真の戦略的天才が現れます。おわかりでしょー」
「え、えっと」
「スターリンですよー。彼は芸術を重んじるという点ではヒットラーに似てましたぁー。なんせ時が来るまで余裕でバレエなんか見てましたから。彼の前で踊っていたバレリーナはさぞ怖かったでしょうねえ。レニングラード・バレエ団が世界一美しいといわれるのももっともですぅ」
言いながら、恐ろしい形相を浮かべ今度は床に膝をついて痙攣しはじめた。それだけでなく、ポンという音とともに、耳からぷしゅうと黄色い液体が勢いよく噴出した。