第二話 それぞれの挑戦 1
麗子と良子が玄関から出てくる。玄関前には黒いベンツ車がとまっていて、金髪のイケメン運転手が立ってドアの横で待っている。
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「ジョン、待たせたわね」
「いえ、奥様」
麗子と良子が車に乗り込む。
「それではスケートリンクに出発します」
後部座席のドアを閉めたジョンが運転手席に座り、ベンツが動き出す。車の中からトロント市内の緑豊かな街並みが見える。トロントの公園の中に大きな屋内スケートリンク場がある。
ここのスケートリンクは2面ある。そこに着替えた麗子がリンクに降りてくる。コーチのケイトが麗子をハグする。ケイトは恰幅(かっぷく)のよいアメリカ人のおばちゃんで、今までも多数のオリンピック選手を誕生させている有名なコーチだ。
このリンクでも、麗子を含め5人ほど教えている。
「調子はどう?」
「とてもいいです」
「それでは始めましょう。今日はジャンプとジャンプのつなぎのところを徹底的に練習するわよ」
「お願いします」
その様子を見つめる良子。
第二話 それぞれの挑戦 2
東京の松濤(しょうとう)にある高級マンション。このマンションに純の家がある。純の部屋は小学生の割には地味だ。ポスターなど貼ってないし勉強机もシンプルで、整然としている。
純がその机で宿題をしていると、母親のいずみが戸をノックして入ってくる。いずみは小柄だが姿勢がよくハツラツとしている。
「純、そろそろ練習の時間よ」
「お母さん、わかりました。準備します」
とはきはきと答える純。
「ところで来週、ご両親の命日だけど、今年も行かないの?」
と様子を窺うように訊くいずみ。
「お母さん、まだ行く気にならないので」
と申し訳なさそうな表情の純。
「わかったわ」
いずみの夫で事業家の重文がリビングにいる。キッチンにいずみがいて、そこに純がスケートに行く格好をして部屋から出てくる。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「気をつけてね」
純は家を出ていく。
「今年も純、墓参りに行かないって」
「今年も無理か。なかなか受け入れられないんだろうな」
「私たちも純に私たちが本当の両親じゃないということを伝えるのが早すぎたのかもしれないわ」
「その時もよく話し合って決めたじゃないか、上に宏がいるし、宏は純が本当の兄弟じゃないことを知っているから話そうということになったじゃないか」
「そうなんだけど」
「これだけは純の気持ちの整理がつくのを待つしかない」