第一章 小樽 人生の転機は突然に

目が覚めた。なぜか息苦しい。白い天井が覆いかぶさるように迫っている感じがした。

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「気が付いたか」

耳慣れた声に視線を移すと、安藤先生がいた。スキー部の顧問である。

「一日近く眠っていたぞ。よかった、よかった」

と話しながらも、いつもの大声で喋る先生とはどこか違っていた。

「転んでしまったようです、はっきりは覚えていませんが」

「うん。昨日宿に着いたすぐ後に連絡が入ってな、うちの学生らしいから至急来てほしいと。びっくりしたよ」

「申し訳ありません、ご迷惑かけて」

「なんも、なんも、気にすることない。それはそうと夕方にはお父さんが来るから」

顔を向けようとしたが、強い力で足とは反対方向に頭が引っ張られているようで動かない。手も足も幾度となく動かそうとするが、全く力が入らない。仰向けにされた丸太のようなものだと感じた。

「部の連中が何人か見舞いに来たが、主治医からしばらくは面会させない方がいいとのことなんで帰ってもらったから。みんな心配してたぞ」

「はい」

数分、事故の話をしたがまだボーッとしている。両足が浮いてるような気がしたがまた眠気を感じていた。どのくらい経ったか、ドアの開く音と、男と女の話し声が意識の外で聞こえていた。医者と看護師のようだった。

「克彦、克彦」

名前を呼ぶ声に再び目が覚めた。父が覗き込んでいた。その顔はすぐ目の前にあった。

「父さん」

緊張感が解け、こらえていたものが切れたように感じた。滲み出る涙を父は黙って拭いてくれた。

「父さん、スキー部顧問の安藤先生。昨日からずっと面倒見てもらってたんだよ」

「克彦の父です、このたびは大変面倒をかけまして……」

「安藤です。いやー、お父さんびっくりされたでしょう」

「昔から無茶をやる子でして……聞いたときにはそう驚くことでもないと思っていたんですが……」

そのとき、医師と中年の看護師が入ってきた。

「主治医の中林先生です。私は犬尾といいます」

優しさの漂う四十代半ばの女性で、ナースキャップには二本の線が入っていた。婦長さんだろうか。

「克彦の父です。どうぞよろしくお願いします」

「新潟からですか、北海道は遠かったでしょう」

中林先生は背が高く、いかにも医者らしい賢そうな容姿の人物だったが、話し方に温かさが感じられた。

「お父さん、先生からお話がありますので来ていただけますか」

犬尾婦長の言葉とともに病室を出て行く三人を横目で追いながら、不安を募らせた。

(何を言われるのだろう)