二十分ほどで父は戻ってきた。肩を落とした父の姿に、何も話してくれなくともいいと思った。だが、少しの間をおいて父は話し始めた。

「首の骨、頚椎の五番目と六番目を脱臼・骨折したそうだ。そのせいで今は手も足も動かすことはできないし、胸から下の感覚もないということだった。首の骨の中にある太い神経が切れているか、痛めた衝撃で機能を失っているか現時点では分からないそうだ」

「切れていたら一生歩けないの?」

話すことが辛そうな表情が見てとれた。しかし父は続けた。

「まだ分からんそうだ。これだけの大きい事故で首の骨を折った場合、五割くらいは生きていないそうだ。お前の場合スポーツをやっていたんで、持ちこたえたのかもしれないとも言っていた。それと、呼吸の中枢が近いので息をするのがきついだろうとも……」

「大丈夫だよ、父さん。神経が切れていると決まったわけじゃないし」

と言いながらも、過去に何度か経験した怪我とは比べものにならないものを感じ、もし切れていたらどうしようという不安が頭の中に渦巻いていた。しかし傷心している父にこれ以上落ち込んでいる顔を見せることはできなかった。

しばらくして安藤顧問は

「また来るから」

との言葉を残し帰っていった。その夜遅く、

「克彦、友達だぞ」

父の声にすぐ目が覚めた。目しか動かせない上に薄暗くもあり、近くに来てもらうまで誰かよく分からなかった。

「大丈夫か」

声をかけてくれたのは幼馴染で長身の和夫君だった。次いで柳沢、山本、宮沢の、中学・高校まで一緒だった連中が見舞いに来てくれた。山本は顔か頭を見るなり「ウッ」と呻いて病室から出て行き、五分ほど戻ってこなかった。

「大変だったなー、知らせを聞いて四人で車で来たんだ。何を持って来ていいか分からんくて、これ」

と濃い赤の薔薇の花束を見せてくれた。

「悪いなー」

と言いながらも、神妙な顔で差し出してくれた花束が場違いのような気がしてならなかった。この時期にこんな花が売っているのだろうかとも思った。遠くから足を運んでくれた彼らにいっぱい話したいと思っても、息苦しくて思うように話せなかった。

結局、丸一日以上かけて来てくれたのに病室には三十分もいなかった。面会ができない状況であったのに、看護師さんの配慮で病室に通してもらったことがせめてもの救いだった。