第一章 小樽 人生の転機は突然に

八時前に駅に向かった。小樽の駅を降りると、目の前に『祝・全日本スキー選手権大会』の横断幕が風に吹き飛ばされるほど揺れていた。自分の泊まる宿は駅の出口からすぐに見つけることができたが、寒々しい宿に映った。仲間と来る楽しさや試合前の高揚感は微塵もなかった。

午後からクロスカントリーのスキーを持ってコースへ練習に出た。試合の二日前ということもあって人影はまばらだ。ジャンプ台の方へ目を向けるとスコップを持った十人ほどの人たちが作業をしている。明日は公式練習だというのに、整備は間に合うのかなと思うくらい整っていない。

次の日の昼近くジャンプ用のスキーを担いでシャンツェへ向かったが、まだ二十人位でランディング・バーンの整備をしている人たちを目にした。一部山を削って作ってあるジャンプ台の滑走部分は、こんもりと新雪に覆われ手付かずの状態であった。大会本部のテントには

『ジャンプの公式練習は明日二十六日の午前九時から正午までとし、競技を同日午後一時からとする』

旨の張り紙があった。

全日本の試合だというのにこんな準備不足でいいのか……忌々しい気分で会場を後にした。