第5章 発達障害の傾向がある職場問題となる社会的背景

現代社会の中で

まず、職場で問題となることを考えるうえで、現在、働くということがどのようなことなのかを考えてみたいと思います。すると、どうしても、現代社会の特質が問題となります。現代の労働の問題は、資本主義の変容ということと深く関係しています。

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経済のみならず、政治的、哲学的、思想的問題ではありますが、まさに、身近な問題でもあります。大きな議論もたくさんありますが、多分言えることは、戦後、資本主義国の一角として高度経済成長を成し遂げたわが国も、70年代80年代と経済の壁にぶつかりました。

資本主義の変容…「お金がある=消費=幸せ」は成り立たない?

平たく言うと、以前のように儲からない、経済は成長しない、低成長、持続可能な社会を目指すような事態になっているということです。

資本主義社会は、大雑把に言うと、資本の増大を目指して、より安く原材料を手に入れ、より安く労働力を使い、より高く商品を売ることです。

原材料、労働力、市場を手に入れいまよりも収益を増やすためには、現行よりも有利な原材料、労働力、市場を手に入れなければならず、労働力の搾取や海外進出などさまざまな試みをします。いわゆるフロンティアが必要です。

しかし労働者の権利や福利厚生、グローバル化の進展などで、もはや効果的なフロンティアはなくなってきているという状況です。そうすると、市場自体を現存している社会に向けるようになります。大量消費時代の到来です。

現代思想の背景として、仲正昌樹は次のように書いています。

「……、『大衆社会』というのは、経済的、社会学的に見れば、大量消費社会でもある。どちらに動くかわからない『大衆』が、(資本主義の中での)消費者としての充足を求めるようになったことで、社会主義革命のような激しい変動への本格的な支持を獲得するのは難しくなった。

そして、生産より消費、とくに文化産業的な付加価値の高い消費財の販売戦略に軸を置きながら発展していく、消費資本主義(あるいはポスト産業資本主義)の顕在化は、ポストモダン思想が台頭する背景となったとされている。

とくに日本の場合、一九七〇年代後半から八〇年代にかけて登場した、新しい『消費文化』が、ポストモダン系の『現代思想』の流行を可能にしたと言われている。」(仲正昌樹、2006『集中講義!日本の現代思想ポストモダンとは何だったのか』NHKブックス83ページ参照)

その後日本は、バブル経済、バブル崩壊を経験してもなお、この消費資本主義、消費を消費で回す経済という特徴はそのまま、あるいは増長されています。