盛江はわざとらしくそう言うと、しみじみと思い起こすような顔をし、
「あの目、あの唇、あの肩――あんなかわいい人が、俺のことを好いてくれてるなんて夢みたいだ。優しいし、気も利くし。今日もこっそり俺の尻ポケットに果物を入れてくれた」
「もう告白したのかい?」
「まだだ。そもそも言葉が分からない。それに――今日はちょっとショックなことを知ってしまってな」
「ショックなこと?」
盛江は表情を曇らせ、
「実は彼女、バツイチで子どもがいるんだ。旦那は狩りの最中に崖から落ちて死んだらしい」
「そりゃまあ、そういうこともあるだろうよ」
砂川は気負うようにトーンを落として言った。
「きれいな人だからモテるだろうし、一緒になれば子どももできるだろう。おまけに、縄文時代の男の仕事は危険だらけだ。どこの集落にも未亡人は多いんじゃないか?」
「俺がショックを受けたのはそこじゃない」
盛江はかぶりを振った。
「この生きづらい縄文時代に、妻だけじゃなく子どもまで養うことを考えると、俺はあまりにも無力だ。一緒になったとしても、すぐにダメっぷりを見抜かれて、フラれてしまうかもしれん。それを想像するとショックで――」
「お前、もう結婚するつもりでいるのか?」
砂川は呆れかえった。
「当たり前だ!」
盛江は上体をはね起こし声を荒げた。
「男と女が見つめ合い、良い感じになったら、結婚しないわけにいかないだろ!」
「なんて強引な理屈だ」
「ああ!」
盛江は髪を掻きむしった。