第12話 昭和47年
それから半年後…戦後27年 西暦1972年 昭和47年 日本。
汚職と賄賂が蔓延していた日本の政界に、戦争孤児から日本初の女性首相は新鮮であった。
戦後19年続いた日本の高度経済成長の終焉、アジア初の冬季・札幌オリンピックの開催、水俣病、イタイイタイ病などの公害問題、一見、戦後驚異的な繁栄を見せた日本も曲がり角にさしかかり、政治・経済の問題も山積みであった。
ホテルグランド赤坂
この豪華な3つ星ホテルで浦総理大臣主催の政治研究会パーティーが催されていた。
立食会場では、政治家、芸能人、経済界から多くの人が集まっていた。
その一角で記者たちがたむろして雑談している。
「就任して半年、日本初の女性総理、初めは新鮮だったけど」
「反戦反核の理想論ばかりじゃどうしようもないかな。根回しも処世術もてんで下手だし、そしてなにより腹に思っている事と口に出すことが一緒だ」
「そこがこの総理の魅力でもあるんだけど。現実の問題と海千山千の古参政治家、いう事をきかない官僚たちに翻弄され総理もかなり苦しんでる」
「35歳の時、女性政治家として、地盤も地縁もない東京都から衆議院選挙で初当選。持ち前の先見の明と判断力、クリーンなイメージでここまでのし上がってきたが、これからどうするかだよな」
「汚職と賄賂から国民の目をそらすための政権与党の民自党の傀儡政権という噂もあるが……ところで、あんたのとこ総力を挙げて探してるんだろ」
「どう探しても、首相の若い頃の経歴が分からないんだよな、旧日本軍の軍部にいたという噂もあるし、古い民自党政治家の弱点を握っていてのし上がってきたという噂もある。我々にとっては格好のネタだけど、これだけ探しても一向に分からないなんて、本当にミステリアスだよな」
「それより聞いたか、そのクリーンなイメージなんだけど……いよいよ」
「例の汚職スキャンダルの噂か、この総理に限ってそんなことはないと思ったが……」
「火のないところに煙は立たないというぜ」
浦総理大臣控室
「総理、スピーチの時間です、壇上へ」
ノックをし、係の男性が声をかける。
「かったるいよな」
シマ(53歳)は吹かしていた煙草を灰皿にねじ込んだ。
「総理はクリーンなイメージから禁煙家という事になっています、もう少し煙草は控えめにしてください」
秘書・家具屋弘人(41歳)の言葉にシマは怪訝な顔をした。