グリマルディは、彼女が話すことをもうこれ以上は聞いていないように見えた。両手で腹を抱きしめ、横になって丸まって、口からは痛々しいかすれ声が出ていた。

「グリマルディよ。あなたの苦しみは、まだあと一、二分続くでしょう。これからすぐ毒は赤血球の酸素吸収を妨害します。あなたは体内の無酸素状態によって死にます。もうちょっとの辛抱よ。苦痛が劇的に軽減するその瞬間をお待ちください。

そして、それから……それから、あなたがおびただしい人数の犠牲者たちとあの世で出会うことを私は期待しています。彼らはきっとあなたとの再会を待ち遠しく思っているに違いない」

グリマルディは最後の痙攣と共に、泡を吹き出して、みじめに息を引き取った。アンカはすばやく彼のそばでしゃがんだ。首のところの冷たくねばねばした皮の下を流れる脈をとるためだった。

そのイタリア人の腸から噴き出した悪臭を放つものでドレスを汚すことのないように、注意深く行う。その汚物は、男のまわりに広がって水たまりのようになっていたのだ。確かに、殺し屋はもはや生きている徴候を全く示していない。

アンカは立ち上がって、その男をドックの端まで足で転がして行った。その日のことをやっと自分の中から押し出した今、アンカ・ツキチは湯船に深くつかって瞼を閉じた。

プリビチェヴィチには、任務の結果について、いつもの手段、つまり事務所がアンカのアパートに設置した電信で知らせた。これからは、プリビチェヴィチの部下の誰かがアンカの家の庭から車を運び、ボスィリチチ夫人に返却する、そしてグリマルディのかばんを例の場所に持って行く。

ちなみに、アンカは家に帰ってから興味深くかばんの中を覗いたりしていた。

宿屋の女主人は、この件の顛末と二人の客の謎めいた失踪のせいで当然動揺することだろうが、プリビチェヴィチの部下は、本件は国家的問題で知らぬが仏だから、ラヘラ・クロムバヘル嬢とジョルジョ・ジョルダーニ氏のことは忘れてしまいなさいと、女主人に誠意をもって勧告するはずだ。