打ち切られる捜索、そして…
炎天下の中、全ての登山道を捜したというので、捜索打ち切りが告げられた。
明純は青い顔をして、良典に何か言っている。解散が告げられる中、武蔵警察署の坂崎が、まだもどっていない隊があるので、いったん武蔵山脈の火口の前のレストハウスに移る、と告げた。
ヒョウゴは良典の車で、明純はイオリの運転する自分の車でレストハウス前の駐車場に向かった。
これで終わりなのか。東京から駆けつけて何時間か武蔵山脈にいて、それであきらめるのか。サクラは、まだ生きて、捜してもらえるのを待っているかもしれないのに!
「おかあさんとさっき話したんだけど」
ヒョウゴとイオリが良典の声に振り返る。今日は金曜日、明日から土日。二人とも仕事は休みを取って来ている。
「坂崎さん」
昨日・一昨日は現場に石黒という担当者がいたが、今日の現場担当は坂崎だという。
「え? 山岳捜索隊に引き続きの捜索を依頼したいんですか?」
坂崎の顔がゆがんだ。
「弟が最後に見たかもしれない風景を、兄と見たいんですよ」
イオリがゆっくりと優しい口調で言った。
※本記事は、2020年12月刊行の書籍『駒草 ―コマクサ―』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
人物紹介
岬 良典(みさき りょうすけ)……六十六歳
岬 明純(あすみ)……良典の妻 還暦
岬 兵庫助(ひょうごのすけ)……良典・明純の長男 東京都在住 プログラマー 愛称・ヒョウゴ(尾張藩師範・柳生兵庫助・柳生宗矩の兄の息子の名より)
岬 瑠布乃(るうの)……兵庫助の妻
岬 蒼輔(そうすけ)……兵庫助の長男
岬 霞音(かおん)……兵庫助の長女
岬 伊織(いおり)……良典・明純の次男 千葉県在住 医師 愛称・イオリ(宮本武蔵の養子・宮本(三好)伊織より)
岬 晶那(しょうな)……伊織の妻
岬 累矢(るいや)……伊織の長男
岬 那瀬(なせ)……伊織の長女
岬 索良之介(さくらのすけ)……良典・明純の三男 神宮県在住 看護師 二十七歳 愛称・サクラ
岬 リョウ子……良典の母・十五年前に九十三歳で亡くなる
沢井 幸三(さわい こうぞう)……明純の父 八十七歳 重度の認知症
沢井 冬子……明純の母 八十五歳 老々介護をしている
沢井 一道(かずみち)……明純の弟 東京都在住 五十五歳